横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.376 コロナ禍の発達障害

浜院長の柏です。今年も残りわずかとなってきました。当院は例年、年末年始は官公庁と同じ12月29日〜1月3日の間を休診とさせていただいております。その間は電話もつながりませんので、薬切れなどのないよう、お早めにご来院くださいね。
今年もいろいろ講演を頼まれることが多く、福祉機関やNPO、学会招待から製薬会社まで平均すると月2回くらい話していたようです。オンライン講演にもだいぶ慣れましたが、やはり聴衆を前に話す方がずっとやりやすいですね。
先週、今年最後の講演が終わりました。第43回全国大学メンタルヘルス学会総会なる大学保健センターの学会でして、ここで教育講演として「大学生・大人の発達障害臨床」と題してまる一時間話してきました。その中でコロナ禍の中での発達障害者の生活について、日頃接している方々の様子を踏まえて話しましたので、今日はそのサワリを書くことにしましょう。
昨年3月、COVID-19により第1回緊急事態宣言が出され、世の中は大きく変化しました。外出は制限され、学校は休みにあるいはオンラインに、会社はリモートワークに。未知のウイルスに対する不安、恐怖もあり落ち着かない日々を過ごした方、また今も不安に過ごしておられる方も多いと思います。発達障害でもとくにASD(自閉スペクトラム症)の方は変化を好まず、慣れた生活スタイルに固執する方も多いのですが、そういう方にはまずこの「変化」そのものが大きなストレスですよね。私が担当している自閉症の青年も、父親がテレワークで家にいる状況になり混乱、不穏になっていたのですが徐々に慣れ、しかし今度は改めて父親が出勤する状況になり、再度不穏になっています。より色の薄いASDの方々(DSM-IV時代にいわゆるアスペルガー障害や「特定不能の広汎性発達障害」と呼ばれた方々)も、そこまで極端ではないですが状況の変化により混乱、ペースをつかむまで時間を要することが多いようです。
次に、学校は休校、会社も出勤停止やテレワーク、感染リスクから出歩かないことが奨励される状況について考えてみましょう。この状況が一番堪えたのは、多動傾向の強いADHD(注意欠如多動症)の方でしょうか。前述のASDの方々を「静」の人たちとすると、こちらは基本的に「動」の人たちです。大海のマグロよろしく、じっとしていると死んでしまう…わけではないですが、家でじっとしているというのは大変、大変な苦痛です。基本的にきちんとマスクをしていれば、繁華街など密な場所でなければ流行時であっても、散歩くらいなら感染リスクはほぼありません。適度な運動は健康にとっても必要なことです。テレワークでは体重が増えている人も多いのです。ADHDの方に限らず、十分歩きましょう。
一方で、逆の意味でこの状況で困っているのがこだわりの強いASDの方です。緊急事態宣言が出ると厳密にそれを守ろうとしすぎるがあまり、まったく家から出なくなり、通院もできず家族が代理受診したり、電話診療のみになったりします。家族が出かけることに猛反対し、外出しても外で会話をしている人に怒ったり、ルール・マナーがゆるい人を許せなかったりします。中には、アルコール消毒、手洗いなど強迫症状が強まってしまった方もありました。
そして、一番大変だったのは大学生、とくに新入生ではないでしょうか。ほぼエスカレーター式に、決められたレールで動いていれば何とかなる高校までとは違って、大学では自分で単位を計算して授業を選択し、時間割を組み立てるところから始まります。授業毎に教室もメンバーも異なり、ゼミや研究室、そしてサークルやアルバイトなど人間関係も複雑になるといった状況には、発達特性の強い方にはコロナ禍でなくともしんどい場面がたくさんあるのです。
そもそも履修のシステムがよくわからない、さらにコロナ禍で同級生と集まることもなく、オンラインで物事が進んでいくので尋ねる機会もない。通常時なら親切な同級生や大学スタッフ、先輩などが助けてくれるものがそれも難しい。最初の履修登録でつまずき、そうなると完全主義が頭をもたげて、じゃあいいやと完全に授業を受ける気をなくしてしまう。コロナ禍ならではの困難です。
そしてオンライン授業。ASDで知覚過敏のある方の中には、オンラインならではの雑音(スピーカー、マイクのわずかなノイズ)を拾ってしまい、それが気になって授業を聞けないという人もいます。Zoomなどで顔が並んでいると、そっちが気になってスライドが目に入らないという人も。このあたりは人によって様々で、逆に教室だと周りが気になって集中できないが、自室でオンラインだとしっかり集中できるという人もいます。さらにオンデマンド授業となると、ADHD傾向の強い方だと先の見通しを立てることが苦手で、ためてしまってあとで大変なことになったり、結局見られなかったり。外出制限もあいまって、昼夜逆転、ゲームに走ってしまう人もいました。毎回小テストや感想文などがついてくるのも、文章をまとめるのが苦手なASDの方には大変だったようです。
社会人の方でも、テレワークは得意不得意がはっきり出ますね。会社では同僚の声や出す音が気になり、通勤電車でも他人の動きにイライラしていた方では、自室環境で効率が劇的に上がった人もいます。職場では蛍光灯のチカチカ(通常わからないような細かい瞬きです)が気になり、自宅では暗い部屋で快適に仕事ができるという方も。かと思えば、画面だけを見ている作業がだめですぐに集中を切らし、効率が極端に下る人もいます。同僚や上司と交流、質問などがチャットやオンラインに限られる状況も、得意な人もいれば苦手な人も。このあたりは、同じASD、ADHDといっても人によって様々のようでした。コロナ禍はきっかけに過ぎず、コロナ禍がなかったとしてもオンライン化、IT化の流れは来ていたことでしょう。時代が、働き方が大きく変わろうとしている今、発達障害の方にとどまらず、どう適応するかが問われているのです。
最後に今日の一曲、特撮続けちゃいましょう。今日はアイアンキングです。これも名作揃いの1972年に生まれた名曲ですね。日活映画のスーパースター浜田光夫が変身するけどめちゃくちゃ弱くて、実は主役は石橋正次でこちらが変身せずに怪獣を倒してしまうという謎展開が魅力でしたね。ではまた。

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