横浜院長の柏です。先週末は会議で京都に行っておりました。趣味の名曲喫茶めぐり、京都はかつて滋賀医大在籍時に通った「みゅーず」が閉店してしまったので、出町柳にある「柳月堂」に初挑戦。ここは入り口で鑑賞室(談話禁止、パソコン・スマホ禁止(;_;)、チャージ600円)と談話室に分かれておりまして、今回は専用室へ。コーヒーにチーズケーキをつけたら諭吉が2枚飛びましたが(;_;)、写真のオーディオシステムはなかなかのものでした。基本はLPレコードのようで、パチパチいう針雑音も懐かしく、値段に見合った体験だったと感じました。当日はシューマンの幻想小曲集などがかかっていたのですが、それは以前扱ったので今日は同じシューマンのアラベスクop.18にしましょう。マウリツィオ・ポリーニのピアノでどうぞ。
さて、今回も前回の続き、Eテレ「あしたも晴れ!人生レシピ」という番組で「うつ病と向きあう」という回についてのブログ後半です。例によってちょっと間が空いてしまい、番組の臨場感なくてすみません(汗)。番組の、うつ病の回復に必要なこととして、「自分の考え方のクセを見つめなおす認知行動療法で、症状が改善に向かった人のケースも紹介」という部分ですね。番組では、なんと当院と連携しているこまち臨床心理オフィスの平松心理士が登場しました!「こまち臨床心理オフィス」とは臨床心理士によるカウンセリング・心理検査を行う専門機関でして、当院・ハートクリニックの心理部門となります。このため、ハートクリニック4院それぞれに併設する形で4つのオフィスがあります。臨床心理士とは、人の「こころ」を扱う専門職で、基本的には心理学部などで心理学を中心に勉強し、カウンセリングを生業とする専門職です。これまで、日本臨床心理士資格認定協会の試験に合格して得られるのが民間資格である「臨床心理士」だったのですが、最近これとは別に「公認心理師」という国家資格が誕生しました。前者は「心理士」後者は「心理師」なんですよね…ややこしい。クリニックの専門職でいうと、医師、看護師、精神保健福祉士は以前から国家資格だったわけですが、これでようやく心理士にも国家資格ができたことになります。ということは、今後公認心理師によるカウンセリングは保険適応となる可能性も開かれたわけですが、現時点ではそうなっておらず、また国民医療費を考えるとそう簡単でもないとも思われます。現在は精神科医が行う医療行為は保険診療である(診断書やセカンドオピニオンなど、一部は自費となります)のに対して、カウンセリングは保険適応となりません(ちょっとややこしいのですが、精神科医が行うのは通院精神療法、心理士が行うのがカウンセリングとして区別されます)。このため、同一機関で診療とカウンセリングを同時に行うと、それは混合診療とみなされ現在の保険システムでは禁止行為となってしまいます。そのため、当院ハートクリニックの心理部門は「こまち臨床心理オフィス」として独立した組織の形を取り、横浜オフィスであればクリニックが2階にあるのに対して、心理オフィスは6階と物理的に分離してあります。しかし、われわれは日常、密接に連携しながら患者さんのために働いております。検査のフィードバック、カウンセリングや集団療法における連携、定期的なカンファランスなどが両者同席にて行われています。
さて、番組で紹介された認知行動療法。こまち臨床心理オフィスのHPにはこうあります。
認知行動療法とは、対人関係や、自分の気持ち、行動の問題について、特に「もののとらえ方(認知)」や「行動」に焦点をあてながら進めていく心理療法です。自分を困らせる「もののとらえ方(認知)」や「行動」に焦点を当てて検討していくことで、感情や身体反応の改善、「問題」に対するセルフコントロール(=自分自身の力で解決・コントロールする)を身につけることを目標とします。
うつ病では、病気そのものの力によってものの考え方=認知に歪みが生じます。なにをやってもうまくいかないと考える、自分はだめな人間と考える…健康なときには、私たちはうまくいく時もあればいかない時もある、自分には欠点もあるが美点もある、と考えられるものです。たしかに失敗することもあるけど、いつもじゃない。一度失敗しても、まあ今度頑張ればなんとかなるだろう、くらいが健康的と言えるでしょう。もちろん、失敗を重ねてもまったく反省せずに平気平気、と言っているのは困るわけでして、何事も適度なバランスが必要です。うつ病ではこれがマイナス側に極端に傾いてしまっており、どうしても悪い側に目が行ってしまいます。さらにうつ病が重症になると「微小妄想」と呼ばれる精神病水準の症状を呈することもあります。うつ病の三大妄想として、心気妄想(重大な病気にかかっていてもう治らない)、罪業妄想(大変な罪を犯してしまった)、貧困妄想(お金がまったくない)が知られていますが、これらはみな微小妄想に含まれます。この水準になると薬物療法が必須となりますが、うつ病がまだ軽症の場合、認知行動療法は薬物療法と同等の効果を持つとされ、英国では軽度〜中等度のうつ病に対しては標準的な治療法と位置づけられています。わが国では、臨床心理士によるカウンセリングが保険適応に組み込まれていないこともあり、認知行動療法はまだまだ標準的な治療法とはいえないのが現状です。認知行動療法、実は保険収載されてはいるのですが、習熟した医師が30分以上かけて行う、という精神科外来の現場ではあまり現実的とはいえない条件がついており、現実に保険診療が行われている医療機関はかなり少なく、現実には当院のように、認知行動療法を希望される方には臨床心理士が自費にてカウンセリングまたは集団認知行動療法の枠にて行う、という場合が多いものと思われます。
おや、集団認知行動療法という言葉が出てきました。ふたたびこまち臨床心理オフィスのHPから引用しましょう。
集団認知行動療法では、グループスタッフ、他メンバーとのグループワークを通して、自分自身で問題について取り組んだり、解決していけるようになることを目指していきます。
現在、こまち臨床心理オフィス横浜オフィスでは、「コンパッションを取り入れたうつ病の集団認知行動療法」なるちょっと難しいタイトルのついた集団認知行動療法の参加者を募集しています。コンパッションcompassionとはちょっと訳しにくい英単語ですね。passionとは日本語でも「パッション」という言葉を使うことがありますが、強い感情、情熱といった意味ですね。しかしこの単語の原義はキリストの受難のことでして、マタイ受難曲は英語でSt Matthew Passionですね。com-は共にという意味の接頭語でして、いってみればコンパッションは「共に受難する、一緒に苦しむ」といったニュアンスになるでしょうか。
NCNP病院のHPにはコンパッションは「自分や他者の苦しみを感じ取り、それを取り除こうとする取り組み」と書かれていますね。さらには、『欧米では「コンパッション」を高めることがうつや不安、精神的健康を改善することが数多く報告されています』とあります。
骨折してギブスをはめている人は病気(怪我)であることがわかりやすく、まわりからの同情を受けやすいのですが、うつ病はじめ精神科領域の疾患では一見してわかりやすいわけではなく、骨折などと比べるとまわりからの同情を受けることが少ない可能性があります。人間は、このようにまわりからいたわりの気持ちを向けられることによって、自分でも自分の病気、自分の状態に気づき、病気の自分を大事にしなくてはいけないという気持ちが芽生えます。うつ病の方はうつ病になったことによってこころに大きな傷を負っており、回復のためにはまわりから十分ないたわりを受け、また自分でも十分休養を取るなど、自分を大切にする気持ちをもつことがとても大切です。しかし、上記のように周囲のいたわりを十分に受けられないために、あるいはそれは受けられてもうつ病による認知の歪みそのものによって、自分を大切にできなくなってしまう方が多くいらっしゃいます。「コンパッションを高める」とは、自分をきちんと大切にするこころを育てることで、うつ病に対するレジリアンス(No.089参照)を高め、しっかりと回復に向かう手助けとなると考えられます。参加ご希望の方は、担当医師またはこまち臨床心理オフィスまでお問い合わせ下さい。
京都でも、その前に個人的に訪れた金沢でも、欧米人を中心に観光客でかなりにぎわっていました。まもなくゴールデンウィーク、皆様も素敵な時間をお過ごし下さい。ではまた。
コメント
はじめまして。さくら(ペンネーム)と申します。以前、横浜クリニックと大船クリニックにお世話になりました。今では、体調も良くなって来ました。でも、夜中に仕事の事を考えると背中が重くなります、リラックスオルゴール曲を聞くと身体が軽くなります。先生のブログを読んで、「コーヒーにチーズケーキをつけたら諭吉が2枚飛びましたが、、、」に何の事?と思いましたが英世の間違いではないですか?それとも、高級レストランに入った?いずれにしても笑えました。次回のブログを楽しみにしてます。♪
No.07875
さくらさん
コメントありがとうございます!最近なかなか更新できなくてすみません。
ギャ~ご指摘どおり英世です!諭吉2枚飛んだら横浜戻れませんでした(^_^;;
これからも当ブログをよろしくお願いします。