横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.392 古い薬について(5) 四環系抗うつ薬など

横浜院長の柏です。参院選直前に大きな事件が起こり、動揺されている方も多いと思います。テレビやネットでは繰り返し事件の映像や音声が流れます。繰り返し衝撃にふれることはこころのバランスを失うことに繋がります。こういう時はテレビを消し、報道から遠ざかって過ごすことをお勧めします(過去にも震災報道について書いています:こちらをどうぞ)。
さて、抗精神病薬、抗うつ薬と、古い薬についてシリーズで書いてきましたが今回がその最終回となります。抗うつ薬、前回代表的な三環系抗うつ薬をまとめましたので、今回は四環系抗うつ薬を中心にまとめてみます。今回登場するのは、四環系抗うつ薬のマプロチリン(ルジオミール®)、ミアンセリン(テトラミド®)、セチプチリン(テシプール®)、そしてちょっと特殊な抗うつ薬としてトラゾドン(レスリン®、デジレル®)です。今回も、「抗うつ薬の選び方と用い方、渡辺昌祐・横山茂生、新興医学出版社」の記載を拝借することにします。先に赤字で同書の記載をあげ、その後に私の個人的印象を書いていきます。まずはマプロチリン(ルジオミール®)から。
マプロチリン:セロトニン再取り込み抑制作用は弱く、ノルアドレナリンの選択的強化剤といえよう。鎮静−精神安定−抗不穏効果を示す。臨床効果の面では、抑うつ気分と抑制症状の改善、意欲亢進、不安除去、各種の身体症状の改善など幅広いスペクトラムを持つことが特徴。うつ病治療の第一選択剤として適しているように思われる。
なかなか高評価ですが、私にとってもマプロチリンは切り札の一つです。前回のノルトリプチリン(ノリトレン®)同様、セロトニンよりもノルアドレナリンを賦活する力が強く、意欲低下・意志発動性の低下といったエネルギーが低下したうつ病の中核群に有効です。前回のKielholzの模式図もご参照ください。新規抗うつ薬のある今では第一選択剤とは言えませんが、他剤でなかなか持ち上がってこないときには有効な選択肢です。けいれん閾値を下げるので、てんかん発作のある方、既往のある方には禁忌となるので注意が必要です。
続いてミアンセリン(テトラミド®)。
ミアンセリン:モノアミン再取り込み抑制ではなく、シナプス前α-ノルアドレナリン受容体阻害によるノルアドレナリン放出促進による。最終全般改善度はイミプラミンと同等であるが、50-59歳の患者や外来患者、退行期うつ病、中等度抑うつ状態などの項目で本剤が優れている。速効性。
新規抗うつ薬でミルタザピン(レメロン®、リフレックス®)というのがあります。SNRIと組み合わせるとカリフォルニア・ロケット燃料とかいわれ、強力な抗うつ効果を示すとされる薬ですが、ミルタザピン単剤では抗不安・鎮静効果が高く、不安焦燥の高いうつ病の方では第一選択、一方でしっかりした抗うつ効果もあるのでうつ病圏で幅広く使われます。主作用はシナプス前α2ノルアドレナリン受容体拮抗作用によりセロトニンおよびノルアドレナリン両方の神経伝達を増強することによるものとされます。一方で抗ヒスタミン作用も強く、眠気につながりやすいのが欠点ですが、不眠の改善を目的とする場合もあります。このミルタザピンは実はミアンセリンの誘導体でして、図のようにミアンセリンの亀の子ひとつのCをNに置換しただけという兄弟化合物です(セチプチリンは後述)。
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ミアンセリンも同様の薬理作用を有していますが、経験的には抗うつ作用としてはミルタザピンには劣る印象ですが、うつ病圏の方の不眠や、それ以外でも睡眠薬を使いたくない、増やしたくない神経症性不眠の方に睡眠薬代わりとして使うのによく使っています(保険適応はあくまでもうつ病、うつ状態です)。かつてはリフレックス®15mg錠100円に対してテトラミド®10mg錠12.3円なんでそのあたりも考えて処方することもありましたが、ミルタザピンも後発薬が出て15mgが19.3円(先発品と5倍以上違うってどゆこと!?)なのであまりかわらなくなりましたね。なお、今回ご紹介している4種類の中で、テトラミド®だけが後発薬がありません。なんでなんだろ。
わが国で発売中のもう一つの四環系抗うつ薬がセチプチリン(テシプール®)ですが、発売がさきの本の出版よりあとであり、本には記載がありません。これも先の構造式のとおりで、ミアンセリンの亀の子が重なる部分のNがCに変わっっただけで、ミルタザピンとあわせて三兄弟となる薬です。ただ、なかなか他の2剤に比べて特徴のわかりにくい薬で、個人的にはあまり処方しておりません。
最後に、四環系ではありませんがちょっと特殊な抗うつ薬としてトラゾドン(レスリン®、デジレル®)をご紹介しましょう。
トラゾドン:セロトニン再取り込み阻害作用を持つが、条件回避反応の抑制や痛覚刺激反応を減弱するなど抗精神病薬の特性を持っている。速効性でとくに不安除去作用が強い。鎮静作用が強く、内因性うつ病と神経症性の不安や抑うつの両方に効果があり、また統合失調症性のうつ状態を軽快させるし、精神病症状を悪化させることはない。

と書いてありますが、個人的には抗精神病作用を期待したり、統合失調症性のうつ状態に積極的に使ったりしたことはありません。基本的にこの薬の最大のメリットは不眠の改善と考えており、ミアンセリン同様に睡眠薬を使いたくない、増やしたくない不眠症の方に積極的に処方しています。深く眠れるようになる方も多く、やめる時も離脱の心配ほぼなく中止可能です。この薬も保険適応はうつ病・うつ状態ですが、鎮静・抗不安作用はあっても抗うつ作用はそこまで強くないと思います(たまにはまる人がいますが)。
今日の一曲は、シューベルトの即興曲。以前作品90-2を紹介しましたが、今日は作品90-4変イ長調を、キーシンのライブ演奏でどうぞ。と、書いてから思い出したんだけど、たしかこの曲、ワタクシその昔ピアノの発表会で弾きましたわ。なんと、もう40年以上前ですね…。ではまた。

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