横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.381 精神障害者保健福祉手帳

横浜院長の柏です。ようやく春の気配が感じられるようになりましたね。公的支援制度シリーズ第2弾は、精神障害者保健福祉手帳、通称「障害者手帳」あるいは「手帳」についてです。これは、所持人が障害者であることの公的証明書ですね。水戸黄門の印籠みたいなもんです(違?)。
障害とは、何らかのハンディキャップのために日常生活や職業生活を送る上で困難がある状態で、しかし何らかのサポートがあればそれを乗り越えて、あるいはそれとうまくつきあって生活したり仕事したりしていける、そういうものを指しますね。ここで大切なのがサポート。しかし、公的なサポートを受けるためには、自分に障害があることを証明しなくてはなりません。そのためにあるのが「手帳」なのです。
制度2.精神障害者保健福祉手帳
手帳には、身体障害・知的障害・精神障害の3種類があり、知的障害のものは愛の手帳(療育手帳)と呼ばれます。発達障害の場合は、精神障害の手帳となります(知的障害になる場合もあります)。
※横浜市・精神障害者保健福祉手帳の説明ページ
※厚労省・精神障害者保健福祉手帳の説明ページ
前回、自立支援医療は精神科に通院中の方であればかなりの方が該当することをお話しました。手帳の場合は、当然ながらそこまで誰でもということではなく、一定水準以上の生活障害を有する方が対象となります。基準については上記横浜市のページをご覧ください。対象疾患は上記厚労省のページにありますが、「そのほかの精神障害(ストレス障害等)」という項がありますので、基本的にはあらゆる精神障害が対象となります。というのは、困りごとの程度は必ずしも病名で決まるわけではなく、それぞれの方の状態やおかれた状況によるのでして、手帳によるサービスが必要な場合は、われわれ精神科医も病名とは関係なく申請を考えます。逆に、例えばうつ病であっても寛解して仕事に問題なく通えているような場合は申請しても通りませんし、われわれも申請しない方向とします。
手帳には、1級から3級までの等級があります。厚労省HPによると、
1級
精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2級
精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級
精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの

とあります。1級というのは基本的に通院も困難な状態でして、当院通院中の手帳所持者の等級は、基本的に2級か3級になります。手帳の等級と障害年金の等級は基本的に同等となりますので、このテーマは次回、年金についてのところでもうちょっと掘り下げる予定です。
最近は手帳申請で一番多い理由は、就労に関わるところですね。一定以上の規模の事業者は、一定割合の障害者を雇用する法定義務があります。近年その中で精神障害者の割合が以前より増えたこともあり、精神障害や発達障害で障害者就労を目的に手帳を申請するケースが多いです。まあしかし、障害者枠は障害者枠で競争が激しいところもありますので、手帳を取ればすぐに障害者枠で働ける、というわけではありませんのでご注意ください。
なお、それ以外の生活援助や就労訓練など、障害福祉サービスや地域生活支援事業に関しては、主治医の意見書等が必要なものもありますが、手帳の所持は必須ではありません。厚労省のこちらのページに詳しいですが、就労移行支援、就労継続支援などがここに入ってきます。
それ以外で大きいのは、税金の控除です。所得税、住民税、相続税が安くなります。本人、配偶者あるいは扶養者は所得金額から27万円(1級の場合は40万円)を控除できます(27万円返ってくる、ではありませんのでお間違えなく)。
あとは横浜市ですと市営交通(地下鉄、バス)に無料で乗車できるので、沿線の方には福音ですね。さらには携帯電話料金や水道料金の割引などもあり、経済面では無視できないメリットがあります。美術館、博物館なども無料で利用できるところが多く、これをかなり活用されている方もいますね。市営住宅、県営住宅の優先入居というのもあるのですが、これはもともと倍率がかなり高いようで、手帳を使っても当たったという話はなかなか聞きません。
最初に書きましたように、手帳は障害者であることの証明です。ということは、手帳を取るということはご自身が障害者であるということを認識し、そのことと向き合っていくための第一歩でもあります。ご自身の弱点を知り、適切なサポートを受けることでよりよい生活を目指す。そこに手帳の本当の意味があると思います。手帳は持っているからといってなんらかのデメリットになることはありません。手帳は持っているが障害者枠ではなく一般枠で就労されている方もたくさんいます。状態がよくなり、手帳のサービスが必要ないと思えば返却することも可能ですし、そういう方もこれまで何人もいらっしゃいました。基本的には必要と考えられる方には医師やソーシャルワーカー、支援者などから手帳の話が出ると思いますが、手帳の意味を考え、ご自身に必要だと思われた場合は遠慮なく主治医にご相談ください。
願いも虚しく戦争に突入しているロシアとウクライナ。ウクライナといえば、クラシック音楽界ではピアノのリヒテル、ギレリス、ホロヴィッツ、ヴァイオリンではスターンの出生地と、私がクラシックを聞き始めた半世紀前には、世界最高峰のタレントを取り揃えていた国です。今日の一曲は、誇りを持って祖国のために立ち上がっているウクライナ人を讃えるために、ウクライナ出身の作曲家プロコフィエフのピアノ・ソナタを、同じウクライナ人ピアニストの演奏でお送りします。後期の第6番、第7番、第8番はなんと「戦争ソナタ」とも呼ばれます。第6番はNo.356で以前ご紹介しましたので、今日は残りの2曲としましょう。それぞれ、初演を行ったのがリヒテルとギレリスですので、まずは彼らの演奏です。
第7番 リヒテル


第8番 ギレリス

最後にもう一度第7番を、ロシア指導者と同じウラディミールの名を持ち、私の最も敬愛するピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツの演奏でどうぞ。ではまた。

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