横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.235 被害関係妄想

横浜院長の柏です。どなたか、間違えて待合に置いておいた「うつヌケ」をお持ち帰りになられた方があるようです。皆さんお困りと思いますので、そっと戻しておいていただけますと大変助かります。あ、当院は図書館業務はやっておりませんので、そこんとこよろしくお願いしますね。
さて統合失調症ですが、幻覚と並んでメインの症状としてあるのが「妄想」です。幻覚のときにもお話しましたが、妄想もやはりそれだけでは統合失調症に特異的な症状とは言えません。うつ病では微小妄想(心気妄想、罪業妄想、貧困妄想:No.134参照)とうつ病のテーマにそったネガティブな思い込みが妄想に発展し、一方躁病(躁うつ病の躁状態)では、自分は何でもできる、必ず成功する、お金はいくらでもある、といった誇大妄想が登場します。認知症では「物取られ妄想」というのもありますね。
では、統合失調症ではどうでしょうか。前回までにもお話しています通り、統合失調症の本質は自我障害であり、それは自分と周囲の世界との関係性、つながりの質的変化です。そして、前々回にお話したとおり、その「周囲」のなかでいちばん重要なのはまわりの人々です。人との関係が妄想に展開すると、関係妄想被害妄想(被害関係妄想)の形を取ることになります。関係妄想とは、「まわりのみんなが私のことを噂している」「TVで私のことを話していた」といったもので、まわりの世界とつながらないところがつながってしまいます。一方で、自分のまわりが外界と膜で隔てられている、まわりから一人置いて行かれているように感じる(No.231参照)ところもあるわけで、周囲との関係性が近づいたり遠ざかったり、ゆらぎを生じるのです。
被害妄想とは、さらに一歩進んで「みなが私の悪口を言っている」と周囲からの「秘められた攻撃性」を自覚するようになったものです。このようにまわりの世界がより「こわいもの」に変わっていくと、日々の生活で強い緊張感を余儀なくされ、エネルギーの消耗が激しくなってしまいます。幻聴が迫害的な内容であれば、さらにこれが強まることとなるのです。
では今日の一曲。バッハ作曲、ブゾーニ編曲によるシャコンヌ ロ短調をキーシンのピアノでどうぞ。実写版もあるのですが、これは途中からのものなのでここでは全曲版を。ではまた。

コメント