いまじねぃ〜〜〜〜いしょん!
一週間は関根勤の一声からはじまる、横浜院長の柏です。チケット君かわいいですね。トッキュウジャー、そのキーワードは「イマジネーション」。つまり想像力。5人の若者がそのイマジネーションを生かして敵を倒し、未来を切り開く物語です。物語の伏線は、若者達が記憶をなくしていること。そのマイナスが、彼らの豊かなイマジネーションをもたらしているのでしょうか。
イマジネーションと言えば、発達障害(自閉症スペクトラム障害)の診断基準の一つに「イマジネーション(想像力)の障害」があります。彼らは目の前にないもの、ないことを想像して対処を考えることが苦手です。何事もいつも通りだと安心できるが、ちょっと環境が変わるだけでパニックになることもあります。このイマジネーションの障害が対人関係の場面で出ると、相手の考え、意志をくみ取る力の弱さとなり、社会性の障害、コミュニケーションの障害という形で現れることになります。最近では、学生時代までは何とか学生生活の枠組みの中で生活できていた方が、社会人となり会社の中でイマジネーションの力が必要となる場面でつまづき、クリニックにいらっしゃる方も多くなっていると感じています。
さて、土曜日のNHKスペシャル(人体 ミクロの大冒険 第2回 あなたを変身させる!細胞が出す”魔法の薬”)、ご覧になりましたか。
ホルモンの話でしたが、後半はホルモンの一つであるオキシトシンがその主役でした。オキシトシンは、出産時に子宮を収縮させるホルモンですが、むしろ出産後により多く分泌されます。これは母親の新生児への愛着をひきおこすものと考えられており、母親が子どもを慈しみ、進んで世話をするという、人間が種としての存続していくためにとても大切な役割を果たしているわけです。このオキシトシンが、発達障害の方の症状の改善に役立つのではないかと最近注目されています。番組でも紹介されていましたが、東大グループを中心にすでに臨床研究がなされており、効果が上がっている方もあるようです。私も成人発達障害支援研究会の席で加藤進昌先生からこのお話を、ワクワクしながら聞いたことを思い出します。今後の展開が楽しみですね。
ところで、愛着という言葉から思い出すのは「愛着障害」という概念です。最近は一般書籍のタイトルにもなっており、ブームになっている感もありますが(ほんとか?)、DSM診断基準では「反応性愛着障害」として児童精神科の専門用語となっています。愛着障害とは虐待・ネグレクトなど幼少時のつらい体験が引き起こす不安定な対人関係様式を指し、子どもでは発達障害との鑑別は容易、とされています。しかし我々成人発達障害の診療にあたる者にとっては、この鑑別が容易でないケースもそこそこあるのです。つまり、大人になって見られる対人関係構築の失敗が、生まれながらの発達障害によるものなのか、生後の成育過程で見られた愛着形成の問題からくるものなのかの区別はなかなか難しいことがあります。
発達障害を抱えたお子さんの場合、その特性から育てにくいこともあり、そのために(虐待ではないが)母親の愛着度が下がる可能性もありえるでしょう(もちろん、多くのお母さんは十分に慈しんで育てておられます)。このように発達障害は愛着障害(的傾向)の誘因ともなりうるわけで、これらはオーバーラップすることもあるとも考えられます。こうした要素も重なりなかなか難しい問題なのですが、実際には例えば「発達障害者支援」の福祉的枠組みに乗せるためには発達障害の診断が必要で、しかし発達障害ではない愛着障害を抱える方でも同様の苦痛を抱え、支援を求めている方はいらっしゃるわけです。今後の大きな課題だと思います。
オキシトシンが発達障害に効果的として、それは彼らの生来のものである特有の認知の改善に効いているのか、それとも二次的な愛着の部分に効いているのか。オキシトシンの本来の役割を考えると、後者の可能性も高いでしょう。だとすると、反応性愛着障害や複雑型PTSDなど、さらには摂食障害、社会不安障害など、主に対人関係のストレスがもたらした病気にもオキシトシンは有効ではないのか。。。いろいろ考えさせられますね。
NHKスペシャルですが、10日(木)0:40-1:29に再放送されるようですよ。見逃された方はぜひご覧下さい。水曜の深夜ですのでお間違えなく。
コメント
オキシトシンにつけてお聞きします。
母親にもオキシトシンの分泌の多い少ないがあるのでしょうか?
その多少によって子どもへの愛着に差が出るのでしょうか?テレビでは、お母さんが産まれたての子どもを見て「可愛くてしょうがない。」と言っていましたが、そうでない、愛情がなかなか湧かない母親もいますよね。
また、オキシトシンは母乳を作るというような内容がありましたが、オキシトシンは母乳を通して乳児に摂取されるのでしょうか?
もしそうなら母親のオキシトシンの分泌量は遺伝以外にも(遺伝しますよね?)子どもに影響を与えるということになりますよね。
オキシトシンの分泌量が少ない母親からはオキシトシンの少ない(愛着が少ない)子どもが産まれやすい、ということはあるのでしょうか?
いろいろな苦しみの原因を少しでも知りたくて質問させていただきました。臨床実験中であることは承知していますが、先生がご存知のことを教えてください。
匿名さま
ご質問ありがとうございます。専門ではないので間違ってるかもですが。
母親によるオキシトシン分泌量の差はあると思いますし、母性の差につながる可能性は否定できないと思います。ただそれは遺伝よりもはるかに後天的な母子の相互作用によるところが大きい・・・母子関係が良好ならさらにオキシトシンが分泌され、分泌されるからさらに母子関係がよくなる、といった・・・と思います。なので、オキシトシン分泌量の少ない母親から分泌量の少ない子どもが生まれやすい、というのはあたらないように私は思います。
また、母乳を通じて乳児に摂取・・・はされるでしょうが、ペプチドなので乳児の胃腸で分解されてしまい、ホルモンとしては作用しないと思われます。
もう一度質問させてください。自分の子どもが、特に母親も育児が初めての最初の子どもが、発達障害であったけれどもそれに気づかず、子どもを「言うことをきかない子」「困った子」としか思えずに日々ストレスを感るだけで、子どもを可愛いと思えなかった時にはオキシトシンの分泌は少なく、母性も出てきづらということにもなりますよね。もし、そうして知らない内にできてしまった親子関係の溝は、子どもが大人になってからでは埋めるのは困難になるのでしょうか?
うまくいかなかった親子関係は負の循環しかうまないのでしょうか?
匿名さん
ご指摘の点は、「愛着障害」の問題そのものだと思います。
「困難」ではありますが不可能ではない、というのが答えだと思います。
対人関係療法でいえば「再交渉」のステップになります。難しいプロセスではありますが、挑んでみる価値は十分にありますよ。
・・・このあたりでご勘弁いただければと(^^;;
ありがとうございました。
「人体 ミクロの大冒険」は、しっかり見ました!一人の人間の命の輝きを改めて深く思い知らされる番組でした。科学が発達して、いろんなことがわかればわかるほど、生命は神秘的です。う~ん、陣痛、つまり産みの苦しみが愛情と密接にかかわっているのではないかと、ずっと思っていました。オキシトシンだったのですね。「ためしてガッテン!」でやっていた隕石の成分から抽出した薬と言うのも、興味深かったです。なにしろ、睡眠障害とうつ症状によく効くとのこと。この季節、私は不安定になるので、身を乗り出しちゃいました。
まねきねこさん
ガッテン、私は見ていないのですが、患者さんからガッテン見たのでフェリチン調べてほしいとかリクエストを受けています。隕石の成分もそれですかね。