横浜院長の柏です。前回ブログから半年以上経ってしまいました。日々に忙しく、ネタもなかなか続かず(汗)、またoutputの場としてX(旧Twitter)を主戦場に移してきたこともあり、こちらがどうも疎かになってしまいました。申し訳ございませんm(_ _)m。
例年正月には気合を入れて記事を書いていたことを思い出しましたが、最近はそんなに大きなことを考えているわけでもなく…年を取りましたかね(^^;;。
私は昭和の最後の年に医師となりました。今年は令和7年=平成37年(=昭和100年)ですが、昭和の最後の年に医師になったということで平成の年号がちょうど医師になって何年たったかと一致していますので、今年の6月1日(今は4月1日ですが、当時はこの日が医師スタートだったんですね)で丸37年になります。長らく医師として勤めさせていただき、またクリニックに移ってからも4月1日で丸16年となります。同じ仕事で長く勤められることは幸せなことだと思っていますが、ここ最近、とくにこの1年でしょうか、時代の変化を感じることがいろいろありますので、年初にあたり、私が個人的に実感していることについていくつか書いてみようと思います。今回はこれです。
薬が足りない!
一番はこれですね。30年以上医師をやってきて、保険収載されている薬が欠品していて出せないという事態は、ほとんど記憶にありません。たまに製薬会社の都合で(品質管理上の問題のことが多かった印象です)欠品することがあっても、比較的短時間でもとの流通に戻っていたと思います。今回は、精神科領域を含むさまざまな領域で同時多発的に欠品が発生し、しかもそれがそこそこ長い間続いている状況です。とくに、昔からある古い薬にその傾向が顕著です。トリプタノールやトフラニールのような、私が研修医の頃はうつ病の第一選択だった三環系抗うつ薬や、コントミン、レボトミンといったかつての統合失調症の基本薬剤である定型抗精神病薬。このあたりは私にとっては重要ですが、まあより新しい薬である程度代用できないわけではないですが、一番困ったのは双極症治療薬の炭酸リチウム(リーマス)です。これは双極症の一番古い薬であると同時に、今でももっとも重要な薬の一つでもあります。リーマスだけで長年コントロールしている方も多いので、大変困る事態が発生します。他にもジアゼパム(セルシン)、ゾピクロンなどの一般的な薬が次々と出荷調整となるなど、いやー必要な薬がないって大変なことだ、と痛感した次第です。
この問題の根底にはいろいろ複合的な原因がありそうですが、一番大きな要因は行き過ぎた薬価引き下げでしょう。国民医療費の増大問題を解決するため、厚労省は毎年薬価を少しずつ引き下げています。前述のリーマスなんか100mg錠が8.8円ですよ。後発薬の炭酸リチウムは、製薬会社にもよりますが5.9円だったりして、そのため後発メーカーが製造中止を決定する事態となり、ますます混乱が生じています。こんな双極症の患者さんの命運をにぎる薬が、うまい棒(値上げして15円)より安いなんてありえないと思いませんか?そもそもリチウムは、リチウム電池などへの需要増から原産国のチリに中国が入り込むなど国際的に過当競争にある微量金属でして、そんな安い治療薬のためにシェアを取ることなど企業には到底できないわけです。このままでは、いずれ日本で炭酸リチウムが入手できなくなる危険もあると思います。
炭酸リチウムに限らず、わが国では多くの薬でこうした極端な薬価切り下げが繰り広げられてきました。製薬会社の体力は落ち、そこで発覚したのが後発品メーカーの品質不正問題でした。2020年12月に水虫の薬に睡眠薬が混入して被害者が出た事件があり、その後相次いで後発品メーカーを中心に品質管理の不正問題が明るみに出ました。そして後発品メーカーが次々と品質不正から業務停止命令を受けるに至って、混乱はさらにエスカレートしました。これにはもちろん各社の問題がありますが、一方では薬価が安すぎて各社が安全・品質管理に十分な資金を投入できなかった、という背景は無視できないでしょう。
来年度のさらなる薬価引き下げの答申が出たように聞きますが、もう限界ではないでしょうか。古い薬であっても製薬会社が安定供給できるだけの収益を上げられる構造にしないと、特に外資系の企業などわが国の市場を見捨てる方策を取ってしまうことになりかねません。一方で、認知症の新薬など数百万円かかるものを保険収載するなど、どうも保険診療における薬価のバランスの悪さは極めて憂慮すべき状況にあります。私たちが安心して必要な薬を処方できて、患者さんが安心して必要な薬を常時手に入れることができる、これまでの素晴らしい日本の医療システムをいかにして維持していくのか、重要な局面に来ているのです。
さて、このブログは最後に「今日の一曲」のコーナーがございます。今回は、オーソドックスに今年のウィーンフィル・ニューイヤーコンサートにしましょう。安定のムーティ指揮です。では、今年が皆さんにとってよき一年になりますように。近い内に(その2)を書き、今年はまたブログのペースを上げていければと思いますので、よろしくご愛顧のほどお願いいたします。
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