横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.382 障害年金

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横浜院長の柏です。パンデミックに続いて戦争と不安な世の中ですが、われわれはあまり報道に踊らされず、目の前のことを一つずつしっかりやっていきましょう。さて、自立支援、手帳と続いた公的支援シリーズ、最終回は障害年金です。
制度3.障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)
厚労省説明ページ
横浜市説明ページ
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。厚生年金加入中の発症であれば障害厚生年金が、それ以外の方は障害基礎年金が受給できます。障害基礎年金は1級と2級、障害厚生年金の場合のみ3級まであります。「生活や仕事などが制限される」の具体的内容はここにありますが、身体障害の程度が示され、精神障害はそれらと同等以上、というなんともわかりにくいものでした。その後「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」が制定され、それに従って等級が決められるようになりました。基本的には、前回お話した手帳での等級とほぼ同程度となるのですが、年金の場合は金銭に直接関係したことでもあり、手帳の場合よりも審査が厳しいのが実情です。現実に私の外来で障害年金を申請する場合は、就労できない、あるいは障害者枠での就労や就労継続支援A型あるいはB型事業所に通所中のいずれかが基本です。一般就労でも、病気の影響で短時間のアルバイトなどしかできない場合も対象とはなりえます。
年金制度というのは、当然ながら年金に加入している人、すなわち年金をきちんと納めている人のための制度であり、年金を納めていない期間に病気になった場合は支払われない、というルールがあります。まあこれは、きちんと年金を納めている人の権利を守るためのものでもありますから、やむをえないところではあります。しかし、このルールのために年金取得に大きな困難が生まれる場合があるのです。その一番は、初診日がわからない、あるいは初診の医療機関がわからないか、なくなっている場合です(これには医療機関自体がなくなっている場合と、カルテがなくなっている場合があります)。精神科的な不調が発生し、はじめて精神科/心療内科に通院した日(=初診日:転院している場合は最初にかかったところになります)、これが大事なのです。この日に正当な理由なく年金を収めていないと、自動的に年金受給の資格がないことになります。未成年である、あるいは収入が少ない・学生であるなどの理由で支払い免除や猶予の手続きをしている、などであれば正当な理由として、納めていなくても年金受給の資格がありますので、支払いが困難な場合は必ず手続きをしておきましょう。
障害年金を受給するためには、病気の状態が固定する、すなわち長期的に障害の状態が持続することが予想されることが条件になります。前回、手帳の取得には初診から6ヶ月後以降になるという話をしましたが、障害年金の場合、この病状の固定(これを認定日といいます)は初診日から1年6ヶ月後、とされています。未成年の場合は、20歳の誕生日が認定日となります。
初診から1年6ヶ月経って、病状の改善が十分でなく生活や仕事に大きな支障が続いている、今後も続くことが想定される場合、年金申請を検討することになります。1年6ヶ月以上経ってからの申請も可能で、その場合は1年6ヶ月時点の診断書と現在の診断書の2通を提出することにより、これまでもらっていなかった分の遡及請求が可能です。ただし遡れるのは5年分までなので、それ以前については時効となってしまいます。また、1年6か月時点では障害が軽かったが、それ以降に増悪して年金受給水準となってしまった場合には、事後重症としてその時点からの申請を行う(この場合遡及はできない)ことも可能です。
自立支援や手帳の場合は、診断書を書く医師が大変なだけで、ご本人は申請に窓口に行って必要書類に記入するだけですが、障害年金の場合、申立書を書き上げるなどご本人がやる作業もそこそこあります。トラウマ系の方の場合、ここでトラウマを直視せざるを得なくなるため、ご負担が大きいという事実もあります。なかなか大変な作業ではありますが、通常の場合、自力で対応可能です。また最近は、年金事務所もなんだか親切になってきていて、係の方が懇切丁寧にサポートして下さることが多いように感じます。当院ではソーシャルワーカーが記入のお手伝いをしますので、自信のない方はご用命ください。とくにお代をいただくことなく対応いたします。なお、医師が記載する診断書も、自立や手帳の場合よりもはるかに手間のかかるものなので、少々お時間をいただくことになることを語理解ください。
面倒なのが、先にも書きましたが初診の情報がしっかり取れない場合です。問い合わせたがすでにカルテがない(法律上の保存義務は5年分のみです)となると、当時の領収書とか診察券とか、証拠となるものが必要です。これもない場合は申立書を書くことになりますが、これはなかなか面倒な作業となります。
障害年金に関わる専門職として、社会保険労務士(社労士)があります。かつてNo.328でも書きましたが、中には悪徳(と言い切ってしまおう)の方もありますので注意が必要です。基本的には年金事務所の方(ここにも社労士がいます)や当院ソーシャルワーカーがお手伝いするだけで余計な手数料無く問題なく申請できる方が多いので、まずは担当医にご相談下さい。医師に年金のことを相談するのをためらわれる方がありますが、心配ご無用ですのでご遠慮なくどうぞ。先に社労士に相談してしまうと「損」な場合が多いですよ。ただ、当院でも上述のような複雑な状況の場合のみ、信頼できる社労士にお願いすることはありえます。
年金は、取得後1年〜5年の間(状況により変わります)で更新の手続きが必要となります。手帳と同じで、この場合も定期的な通院が前提となりますので「年金通りました→来なくなりました→更新通知が来たのでまた来ました」ではこちらも経過がわからず診断書を書けません。診断書には年間何回通院したかを記載する欄もありますので、通院中止=年金停止に直結しますのでご注意下さい。また、最近更新の際にも社労士が間に入るケースがあり驚いているのですが、更新は医師が診断書を書くだけなので、社労士の仕事は更新不可にでもならない限りないはずです。なので、社労士への依頼はするとしても初回申請時のみ、とお考え下さい。
障害年金は、今後の生活を支える大切なものです。とくに遡及請求の場合まとまった金額(下手すると数百万円)が一気に手に入ることがあります。時々無計画に使ってしまう困ったチャンがいるのですが(フィギュア買いまくったA君、キミのことだよ!)、大切なお金です。しっかり蓄えておきましょう。病状から本人の管理が心配な場合は、最初から責任ある管理者をつけておくことも大切となります。
ニュースでウクライナの映像が流れてきますが、本当のことなのかと不思議な感覚に襲われます。こういう時思い出すのがNHKの「映像の世紀」。加古隆によるメインテーマ「パリは燃えているか」を様々なバリエーションでどうぞ。なんどか紹介したけど(ここでひとつ、またそれ以前の紹介もあります)、NHKドキュメンタリーのテーマソングはどれもいいねぇ。ではまた。

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