横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.363 精神科医と資格

横浜院長の柏です。昨日の日曜日は、朝から悪魔の電話がかかってきまして(^_^;;、横浜市の依頼により措置入院鑑定業務のため某病院まで出かけてきました。措置入院とは、自傷他害の怖れのある患者さんに対して行政措置として行われる強制的な入院手続きのことです。後述の医療保護入院の場合のように保護者の同意が不要なため、専門家である精神保健指定医(以下、指定医と略記)という資格を持つ医師2名が鑑定を行い、両者ともに措置が必要と判断して、はじめて入院となるのです。週末や夜間、当番の病院も当直医1名でやっているため、もう1名を自治体が確保して派遣する、その指定医のリストに私も載っているわけです。ふだんクリニックで外来のみの仕事をしていると、基本的に指定医資格が必要な業務はありません(保険診療上の細かいところでは、点数の差がわずかにあります)。せっかく頑張って取った資格を世界平和のため、じゃねえや、地域精神保健への貢献のために使うことは指定医の義務と考え、時々ではありますがお手伝いしているわけです。
というわけで、今日は精神科医のもつ資格についてお話しましょう。ちょっとお堅い話になりますがご容赦ください。
精神科医は、当然ながらまず医師資格を持っているわけですが、それ以外にもいろいろ資格がありまして、私も
・医学博士号
・精神科専門医・指導医
・精神保健指定医
と持っておるわけです。医学博士号は研究成果に基づくものでして、仮説を立てて研究を行い、結果を出して論文にまとめ、大学院の審査を受けることで手にすることができます。現在は大学院に進まないと取れないようですが、私の頃は「論文博士」という仕組みがあり、私も大学院には進まず、論文一発で博士号をいただいております。臨床研修システムの変化などもあり、今は医学を卒業しても、大学院に進んで博士号を取ろうという人は少ないようですね。患者さんと向き合う中で出てくる疑問を自分の手で解決していくためにも、研究者としての姿勢は大切であり、よき臨床家となるためにも重要なことだと思うんですけどね。私の頃は、博士号を取って留学するというのがまあよくあるパターンだったのですが、最近は留学する人も減っているようで、日本の国力とも関係することでもあり悲しい限りですね。油の乗り切った頃に海外で暮らすのは、研究者としてだけでなく、人生そのものの幅を広げる貴重な経験なんですけどね(まあそんな考えから、長男は大学からアメリカに送り込んでいます…医師ではないですが)。
専門医・指定医と後2者は臨床に直結したものでして、まあ、まともな精神科医の必要条件と言っていいんじゃないかな(十分条件ではないですけど)。精神科専門医・指導医というのはわが国の精神科領域のナンバーワン学会、日本精神神経学会が認定する資格です。今では国をあげて専門医制度をしっかりしようという動きがあり、日本専門医機構なるものが内科、外科はじめ専門医制度の統一的な基準づくりを進めている段階です。
さてこの日本精神神経学会、今日は詳しくは書きませんが、かつてはいろいろありまして、私も専門医制度ができたのでやむなく入会した(2007年に専門医を取ったぽいので、入会したのはそのちょっと前かな。精神科医になって20年近く経っていますね)経緯があります。その後ようやく学会も正常化して、今では毎年真面目に学術集会に参加して発表もしております。その学会が、精神科医としての一定の技量を持つものを専門医として認定するわけで、私の時は症例報告と面接で資格をいただいたかと、ちょっとうろ覚えになりつつありますが思います。その後は、研修手帳なるものができて、資格取得には各領域で必要な症例数などが定められているようで、私が取得した時より取得が大変になっている様子です。なお、指導医というのは、研修施設で若手医師を教育する際に必要となる資格です。
最後の資格が、精神保健指定医です。精神科臨床においては、ときに患者さんの自由を制限せざるを得ない場面があります。例えば、病状から入院が必要だが、ご本人は病識がなく入院に同意されない場合。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)の規定に基づき、指定医の判定と保護者の同意に基づき医療保護入院となりますが、これは本人が拒否していても入院が成立します。最初にお話した措置入院もそうですね。こちらは指定医2名の判定のみで決まります。また、入院中に隔離(鍵のかかった部屋に入ること)や拘束(衣類あるいは綿入り帯等を用いて身体の一部の運動を制限すること)が必要となる場合にも、指定医の診察と判断が必要です。このように人権に関わる責任の重い資格ですので、取得には多数の経験と報告が必要で、私も精神科医人生の前半は研究中心だったことから、指定医を取得したのは精神科医になって10年ほど経ったころでした(最短は5年の経験で取れます)。指定医については、数年前に不正取得として多数の医師が資格剥奪となった事件がありました。指定医になるためには定められた種類と数の症例レポートが必要ですが、それを数名で使いまわしていた、直接主治医として診ていなかった、その監督ができていなかった、といった理由だったかと思います。県内でも複数の大学病院でこうした事態が発覚するなどの混乱があり、しかしその後資格剥奪となった指導医が裁判を起こして剥奪措置の無効判決が出るなど、なかなか混沌とした事態が続いています。人権に関わる大切な資格ですから、厚労省もしっかりと対応し、この資格が正しく取得され使われるようにしていただきたいものです。
今日の一曲、ここで一度も紹介していない作曲家、ハイドン行ってみましょう。ピアノを習っていた方なら一度は弾いたであろう、ソナチネアルバムの13番としても知られるピアノ・ソナタ第35番ハ長調Hob.XIV: 35です。Hobとは、音楽学者のホーボーケンによってつけられた番号です。ファジル・サイのピアノでどうぞ。いや懐かしい曲だなぁ。ではまた。

コメント

  1. ultima より:

    わー…本当に懐かしい♪私も勿論playしましたよー!
    心が小学生に戻ります✨
    それにしても 私儀 受診を遅刻してしまったりサボってばかりで大変申し訳ありません。
    コメントしてしまうと編集係の方にご迷惑がかかってしまいそうで、暫く遠ざかっておりましたが、次回こそ必ずや予約のお時間通りにお邪魔させていただくべく心と体を整えて準備したいと思います!!
    柏先生はじめ皆さん 無事ワクチン接種 終えられたようで安心すね✨とはいえ引き続き見えない敵との戦い…
    みーちゃん原作ラシャーヌの言葉を借りるならば
    「たーおれーるぞー」ならぬ
    「がーんばーるぞー」
    或いは 炎柱・煉獄 杏寿郎に倣い「心を燃やせ」を胸に励みます! お元気出すぞー!!

  2. 横浜院長 より:

    ultimaさん
    お返事遅くなりすみませんm(_ _)m
    コメントありがとうございます。ご迷惑とかとんでもありません。最近皆さん遠慮されているのかコメントが少ないので、書いていただけると大変ありがたいです。
    やはり弾きましたね、この曲。ソナチネアルバム、意外と?名曲揃いなのでここからも選曲しましょうね。次はクーラウかな…。