横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.355 コンサータ

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横浜院長の柏です。ようやく医師会から連絡があり、コミナティ(ファイザー製新型コロナウイルスワクチン)の第1回接種を受けてきました。今のところ痛みも副反応も何もありません。緊急事態宣言より何より、コロナ禍終息の必要条件はワクチンが十分に行き渡ることです。早く皆さんの元にも届くことを願っております。
気候変動サミットが行われ、温室効果ガス削減に向けて世界各国の動きが見えてきましたね。No.310でご紹介したグレタ・トゥーンベリのスーパーパワーがいよいよ世界を動かすか。そのタイトル「ASDは人類の未来を救う」が実現に向かうことを祈っています(この回は昨年の新年1発目のブログですが、例年新年1発目はリキ入れて書いています。ぜひ読んでね)。今回は最初に今日の一曲をご紹介しますが、久々に特撮ものにしましょう。1973年放映、ファイヤーマンのオープニングです。子門真人、絶頂期ですね。ぜひ聴いていただきたいのが、2番の歌詞(1:10から)です。今日の世界を予見していたようなこの歌詞はすごい。そして、グレタの正体はファイヤーマンではないか?そんな妄想を抱きながら聴き直したワタクシでありました。


さて、ADHD治療薬についてのお話。前回までに、薬理学的な説明を一般の皆さん向けにお話しました。今回からは、そうした背景を踏まえて、実際の各薬物についての各論、そして効き心地、飲み心地(現時点でのもの)について、私の処方経験をもとにまとめてみたいと思います。今日はコンサータについてお話しましょう。
前回お話したとおり、コンサータはドーパミンを強めることでノイズを下げ(ノイズキャンセリングを効かせ)、ストラテラとインチュニブはノルアドレナリンを強めることでシグナルを上げ(音量を上げ)ます。ノイズキャンセリングイヤホンを使ったことのある方ならわかると思いますが、ノイキャン機能はなかなか強力でして(No.151も読んでね)、サーッと静かになりすごい!と思う反面、なにか不自然な奇妙さも感じるところがあります。当然ながら周りの音がよく聞こえなくなりますので、歩きながらの使用では注意も必要となります。その意味では、音量の上げ下げの方が自然な変化ですが、周りがあまりにうるさいと結局聞き取れないこともある、とまあそれぞれ一長一短なのです。
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コンサータ(メチルフェニデート徐放錠)
1. 特殊なカプセル
徐放錠とは、錠剤からゆっくりと放出されることで長時間の効果をもたせた製剤です。朝服用することで、人にもよりますが夕方〜就寝前くらいまで効果が持続するように設計されています。メチルフェニデートはもともと速放錠(通常のお薬ということです)としてリタリンという薬があり、覚醒系物質としてナルコレプシーなど過眠をきたす病気を中心に使われていました。ADHD小児においても、保険適応外ですが症状緩和のために広く使われていましたが、一部医療機関での処方乱発、乱用患者増加などが社会問題となり、2008年に登録医制度となるとともにナルコレプシー以外への処方が禁じられました(これは、発売元のノバルティスが、自らそうした…それまでは他に難治性うつ病、遷延性うつ病という保険適応があり、これがADHDへの保険外適応の抜け道であったのですが、同時に悪の温床となっていたわけです。なお、ホンマの難治性うつ病には使う価値はあると思いますが、相当な慎重さが必要です)。同時期に発売されたのがコンサータです。
コンサータの特殊な徐放製剤のメリットは実は二つあります。一つは前述の通り、一日を通して効果が続くこと。リタリンは数時間しか続きません。もう一つは、副作用と関係したことです。メチルフェニデートのように直接ドーパミンを増やす薬を精神刺激薬psychostimulantsと呼びますが、これは幻覚・妄想・精神運動興奮などの精神病状態を起こすリスクがあるという意味でもあります。これらは統合失調症では陽性症状と呼ばれるもので、ドーパミンを抑える薬=抗精神病薬がその治療に用いられます。リタリンが乱用されたというのも、幻覚・意識変容といった「トリップ」状態を楽しむ目的で使われたわけです。さて、この精神病状態が起きるためには、精神刺激薬が脳に入り込むスピードが重要な役割を果たすことが知られています。脳内に薬物が急激に入り込むことが、精神病症状や依存乱用につながるためには必要なのです。コンサータはOROSという特殊なメカニズムのカプセルに入っていて、消化管内でゆっくりと、ゆっくりと溶出されます。このために脳内にゆるやかに入ってくることから、脳内ドーパミン濃度を安定させ、ADHD症状の緩和をすると同時に、精神病症状・依存乱用形成は起こしにくいという「いいとこ取り」を狙っているのです。この技術はたしかに優秀で、私も最初は乱用リスクを怖れてコンサータはほとんど処方しなかったのですが(私の場合、診ているそのほとんどが成人であるという事情もあり)、その後相当数の処方を行いましたが、ここまで明らかに依存・乱用が疑われるケースや精神病症状をきたしたケースは経験しておりません。
2. 効き心地
朝のめばその日はシャキッと集中力が増す、のまなかった日は効かない、というわかりやすさ。雑音が消えてクリアになるため、ターゲットがよく見えて作業効率が向上。反面、突然背景が消えることによる「不自然さ」を訴える方もそこそこあります。これまでの日常との「不連続性」がはっきりと自覚され、戸惑われるわけです。
そもそも精神科の薬一般にですが、われわれからするとゆっくり効く薬のほうが実は安心感があります。うつ病の方に抗うつ薬を出して、翌週に「元気になりました!」と来られると「大丈夫かな?また急に悪くならないかな?」とこちらとしては心配になるものです。ゆっくりとよくなる方の方が、長期的には予後がよい(改善効果が高い)のです(もちろん、急性期のつらい症状は早期に取ってあげる必要があり、そのために抗不安薬、睡眠薬、抗精神病薬など即効性のある薬も使いますが、そうやって一番つらい症状をカバーした上で、うつ病のプロセスに対しては抗うつ薬でじっくりと取り組んでいくのです)。うつ病のような後天的な病気では、うつ病から回復する=元に戻ることですが、それでもそうした困難さがあります。ADHDなど、幼少期からずっとその特性を抱えて生きてきている発達障害の方の場合、元に戻るのではなくこれまで知らなかった世界に入っていくわけですから、変化についていけない度合いはずっと強いはずです。発達障害の治療にあたる者は、こうしたデリケートなところにも十分気を配らなくてはなりません。
こうした「不連続性」への戸惑い。あるいは、背景が消えることにより、かえって視野が狭くなり「過集中」しやすくなっているのではないか?と見える方もあります。いろいろとクリアに見えるようになるのはいいけど、中にはこれまでのつらかったことまでよりクリアになってきて、よりしんどくなる方もあります。なので、トラウマを抱えている方には、とくに慎重な使い方が求められます。覚醒系物質ですから、日中の眠気が少なくなるという作用もありますが、これはあくまでもサブの作用(主作用は集中力向上)であることにご注意ください。あと、食欲が減って体重が減ったり(うーん、とくに女性の場合これを喜ぶ方もあって困るのですが、栄養不足では元気になりませんよ!)、血圧を上昇させることもあるので注意が必要です。
よくも悪くも、シャキッとさせる薬です。返す刀に注意が必要な切れる刀剣、といったところでしょうか。
3. 私とコンサータ
コンサータはリタリン同様に登録医制度を採っておりまして、まあこうして経験談を書いている私も当然登録医であるわけです。こういうブログを書くと、私にコンサータ出してください!という方からの問い合わせが増えそうですので、ここで私のコンサータに向き合う姿勢を書いておきます。私の場合、新患の患者さんにADHD診断がついても、最初はコンサータどころか薬は出さないことが多いです。まずはご本人がご自身の特性をよく知ること。そして、一緒に解決策や工夫を考え、実践してみること。前回も書きましたね。それでも職場や学校、自宅で困りごとが大きく、社会生活・家庭生活に多大な支障をきたしている場合、次善の策として薬物療法を導入します。通常はストラテラ(最近ではジェネリックのアトモキセチン)から入りますが、最近はインチュニブから入ることもあります。いずれにしても、効果・副作用を見届けながらまずはこの2剤までで対処することを考えます。また、うつ病や不安障害など二次障害の重複が課題の場合、SNRIなどから入ることもあります。児童思春期精神科の先生方は、比較的コンサータから入ることが多いようですが、ここが成人期を専門とする医師との違いでしょうか(ここには、逆耐性現象との関連もあると考えますが、これはまた回を改めて)。私は、コンサータは最後の手段と考えています。音量を上げるタイプのストラテラ・インチュニブ(ノルアドレナリンに効く)のほうが、より自然な効果が高く、安心して見ていられる場合が多いのです。もちろん、コンサータは使い方によっては素晴らしい薬ですが、どうしてもほしい!という方は他の医療機関のほうがいいかもです。はい。
次回はストラテラについてお話する予定(予定はあくまで予定)です。ではまた。

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