横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.305 氷漬けの記憶

hitorigoto-305.jpg横浜院長の柏です。木々が色づき、散歩には心地よい季節となりました。昨日は、現在ingressが7周年記念キャンペーン中でもあり、紅葉を愛でつつ地元のenlightened緑化活動。久々に完全多重を作って数学の美に酔い。今日は午前中横浜市の鑑定業務のあと、「ハマのルーブル」こと横浜美術館のオランジュリー展を訪れつつみなとみらいの紅葉を楽しみ、今ランドマークのスタバでドヤリング中です。ルノアールやユトリロなどにふれていると、またパリへ行きたくなりましたねー。
さて、PTSDの話を続けましょう。誰しも、長く生きているとどこかで「怖い」経験をすることがありますよね。まあしかし、普通は時間とともにその怖さは徐々に和らぎ、最初の頃見られた「夢に出てくる」ことも次第になくなってくるのが普通でしょう。しかし、あまりにも強い恐怖を感じてしまうと、その記憶は普段とは異なる形で脳にしまわれてしまい、日常生活に長く影響するようになってしまうことがあります。それがPTSDです。いうならば、その時の記憶がその時のままに…その時の光景、音、温度、においなどのすべての感覚、そしてその時のあらわな感情〜恐怖が「氷漬け」になったようにパッケージ化されて残ってしまうのです。それが、昼夜を問わず日常生活を脅かすわけで、意識のある時に勝手に(自動操縦のように)出てものをフラッシュバック(flashback)、意識のない時(すなわち寝ている時)に出てくるものを悪夢(nightmare)と呼ぶのです。通常ですと、記憶は時間とともに薄らいでいきますよね。そうした「忘れる力」があるおかげで、私たちは嫌な記憶をいつまでも引きずることなく生きていけます。不安や抑うつからも立ち直ることができます。まあ、勉強したことを忘れて試験で困るという不利益もありますが、それを差し引いても忘れられないほうが実はずっと大変なんです。「氷漬け」の記憶は、ともすると大変長い時間残ってしまいます。その記憶が圧倒的なものであるがために、無意識にそれから逃れようとしたり(記憶と関連する場所や人物などを回避する)、防衛本能が極度に高まり交感神経、そしてノルアドレナリンの働きが極端に強まる状態(覚醒度の上昇=過覚醒、過度の警戒)、つまり体中の火災報知器が鳴り続けている状態になったり、あるいは逆に圧倒されてしまってその記憶を飛ばしたり、感情を飛ばしたり(失感情症)するわけです。
この氷を溶かし、身体とこころをその時点から現在に引き戻す作業…それがPTSDの治療の柱となるわけです。PTSDの治療はなかなか難しく、かつ根気のいる作業です。次回以降でじっくり書いていきましょう。
散歩途中、午後からは冷たい風も吹いてくるようになりました。しかしここのところの気候変動のあおりか、関東地方は去年も今年も「木枯らし1号」は観測されなかったとのことです。ではかわりにここで木枯らし1号を吹かせましょう…ということで、今日の一曲は「木枯らし」の名前のついたショパンの練習曲 作品25-11にしましょう。このブログではおなじみ、キーシンのライブでどうぞ。ショパンの練習曲は作品10、作品25とそれぞれ12曲セットになっておりますが、作品10のトリは作品10-12、「革命のエチュード」と呼ばれるダイナミックな名曲です。「木枯らし」も十分トリを張れるだけの曲ですが、その後に作品25-12という完璧な曲がさらに控えているというのがショパンのすごいところかと思います。明日から急に気温が下がるとの話もありますので、皆様体調にはご留意ください。ではまた。

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