横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.233 正体不明の声

ニチアサ・スーパーヒーロータイムがとうとう9時からになってしまいました。おまけにライダー→戦隊の順番、なんか違うんだよな〜。題名のない音楽会も土曜に行っちゃって見れないやんけ(診察中!)、と朝から文句の多い横浜院長の柏です。
hitorigoto-233.png今日から、幻聴についてお話します。先日、比叡山延暦寺の僧侶が千日回峰行なる修行を達成したとのニュースがありました。この修業の中では、断食断水、不眠不臥で九日間真言を唱え続ける「堂入り」なる荒修行があるのですが、ここでは幻聴幻視、幻覚のオンパレードになることがあるといいます。この荒修行はちょっと極端ですが、幻聴などの幻覚とは病気の人だけが経験するものではなく、冬山で遭難した場合など、誰にでも起こりうるものです。医局の先輩の原田誠一先生は、これを「不安、孤立、過労、不眠」といった条件が重なることが原因になりうる、と見事にまとめておられます。冬山の遭難では、これら全部満たしそうですよね。しかし日常生活でも、これらが重なるようなストレス状況はないとは言えないわけです。原田先生は「正体不明の声」というパンフレットにまとめておられますが、現在これはアルタ出版のHPから無料でダウンロードできます。逸品ですのでぜひご覧ください。
幻聴については、そちらが素晴らしいのでそれを読んでいただければ必要十分なのですが、それではブログが終わってしまいますので(笑)、こちらでもコメントしていきましょう。
そもそも幻覚には、幻聴だけでなく幻視(あるはずのないものが見える)、幻嗅、幻触、幻味とそれぞれ五感に対応するものがあります。(ん?ということは第六感に対応するのは…??)その中で、こうしてとくに幻聴だけを取り上げているのはどうしてだと思いますか。
統合失調症は「周囲と自我との関係性の変化」から始まることを前回までにお話しましたね。このとき、本人(自我)から見た場合、「周囲」で一番重要なものは何でしょうか。答えは「人間」です。家族、友人、同僚…自分の周りの人たちとの関係性…通常これが一番大切で、この関係性をつなぐものがコミュニケーションであり、その手段として一番重要なものが人と人との会話です。そのため、その関係性が崩れてきた場合、見えたり匂ったりするよりも、まず聞こえることが多いわけです。私は研修医時代、先輩医師から「幻視があったら分裂病(統合失調症)以外を疑え」と教わりました。30年近く前ですので、古い病名が出てきましたがご容赦を。実際、統合失調症の幻覚は幻聴がほとんどです。幻視は、ないことはないですが「ぼんやりと黒い影のようなものが見える」といった曖昧模糊としたものが多いのです(経過が長くなってくると、はっきりものが見えるケースもあるようです)。はっきりと幻視を訴える場合は、よりオーガニック(器質的:原因のはっきりした脳病変)なものを考える必要があります。例えば入院中のご老人が「そこに息子がおる」という場合は、「せん妄」と呼ばれる意識障害(夢うつつ)の可能性が高く、覚醒剤や危険ドラッグなどでは色とりどりの風景が見えたりします。アルコール離脱せん妄の場合は、そこらじゅうに虫が這っている、という、私だったら堪えられそうもない(怖)こわい幻視体験がしばしば見られます。
では今日の一曲。ちょっとマイナーな名曲、ヴィヴァルディのピッコロ協奏曲ハ長調をどうぞ。ピッコロといっても大魔王ではなく(笑)、小さいフルートのような形でフルートよりも高音が出る楽器です。高音の魅力をお楽しみ下さい。4分15秒からの第2楽章が白眉ですよ。演奏動画つき優先ということで、ピッコロはサラ・カブレラ、アルメニア国立室内管弦楽団の演奏にしました。ではまた。

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