横浜院長の柏です。対人関係療法(IPT)シリーズ、第3回の今日は③役割の変化についてお話ししましょう。人生、いろいろと転機がありますね。入学、進学、卒業、退学、入社、転職、昇進、左遷、退職、結婚、離婚、転居などなど・・・。「死別」については別途①悲哀で扱いますのでここでは除きますが、このように人生とはさまざまな転機の積み重ねそのものとも言えそうです。こうした転機は、チャンスでもありまたピンチでもありえます。そしてまた、一見チャンスに見える入学(合格)や昇進などがピンチを呼ぶこともあり、逆に左遷や失職がチャンスになることもあります。人生、わからないものですよね。
さらには、変化を好む人、好まない人。戦時の英雄、平時の英雄といるわけして、人によってもどこがピンチになるかが変わってきます(変化がないのがピンチにもなるわけです。なお、ingressではchaos←→stabilityですね)。
IPTでは、その人の「役割」を大切に考えます。前回は、②役割期待の不和についてお話ししましたね。人生の転機とは、その役割の変化でもあります。学生から社会人に。独身から妻帯者に。契約社員から正社員に。社員から管理職に。○○県民から神奈川県民に。まずは、このように役割が変わったことを本人がどう受け止めているか。混乱せず、漂流せず、自分の立ち位置を人生の座標軸の中にきちんと捉えられているか。そこを確認するところから始まります。変化は、そのまっただ中にいる人には混乱を引き起こし、ひどい場合には漂流→遭難していると感じさせてしまいます。しかし、変化は新たな立場に達するための一時的なものであり、永遠に続く混沌ではありません。なお、混沌=カオスchaosはよくない意味で捉えられることが多いようですが、新たなものを生み出すための必然でもあるのです(カオスはNo.177でもふれましたが、最近のマイブームです)。まずは自身の役割=立ち位置を再確認するところから治療は始まります。
そして、ここからがIPTのIPTたるところですが、変化においては重要な他者との関係性に変化が生じることが多いのです。就職や転居などで物理的距離が生じることはわかりやすい例ですが、近くにいても関係性は変化します。それは立場の変化による力関係の変化だけではなく、その変化のストレスを「誰にもわかってもらえない」「心配をかけたくない」と中にしまいこんでしまうことも関係性の変化につながるのです。IPTでは、ここを丹念に整理していきます。
では今日の一曲。ようやく猛暑も収まり、朝夕は秋の気配が感じられるようになりました。秋といえばブラームス。今日はラプソディ ロ短調作品79-1を、今日はマルタ・アルゲリッチのピアノでどうぞ。
(補注:IPTについての記載は水島広子先生の著作を参考にしています)
コメント
更年期障害のまっただ中で、記憶力の減退をひしひしと感じています。
私の人生の残り少ない時間で、今までほとんど縁のなかった理数系と音楽の知識に少し触れてから鬼籍に入りたいと思っています。ですから、院長先生のブログは私にとって、理想的です。
先日、葉加瀬太郎さんの音楽番組で、音楽界の三大Bの1人であるブラームスにとって、美貌のピアニスト、クララ・シューマンが理想の女神であったこと、彼の後半生のすべてをシューマンの未亡人である彼女を助けるために捧げたことを知りました。
クララ・シューマンが、素晴らしく綺麗で才能のある女性で驚きました。
音楽初心者向けとして、フジコヘミングさんのエッセイも電子書籍で読んでいます。
その本に出てくる演奏家の名前や音楽用語が全く分からないながら、とても新鮮です。
お忙しい中、お仕事とはいえ、内容の濃いブログを定期的に更新してくださり、心から感謝申し上げます。先生の文章は、先生が師事した養老孟司さんより読みやすくて上手だと思います。
きょうこさん、こんにちは。
お褒めの言葉ありがとうございます。養老先生より上手というのはちょっと畏れ多いです。
クラシック音楽の世界は奥が深いですよ。私も、まだまだ開拓する楽しみがあります。
きょうこさんも素敵な曲に出会えますように。