横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.177 余震とうつ病

横浜院長の柏です。このたび震災の被害に遭われた熊本県、大分県の方々に謹んでお見舞い申し上げます。一日も早く地震が終息し、元通りの生活が戻りますことを心から願っております。それにしても、これだけ科学が発達しても地震の予知はとても困難です。地下の地盤、断層の実際がわからないこともあるでしょうが、それよりもわずかな初期変化が大きな変化をきたすような、「バタフライ効果」とも呼ばれる、複雑系・カオス理論に基づく予知不能性に支配されているためと私は考えます。これは私の専門分野である精神医学、脳科学にも言えることでして、数百億個と言われる大脳の神経細胞はそれぞれ平均数万個のシナプスを作り他の神経細胞とネットワークを作ります。こうした莫大な規模のシステムは非線形の動きを示し、脳はカオスを成します。カオスとは「混沌」と訳されますが、実際は複雑系においてカオスは決定論的であり、ストレンジアトラクターと呼ばれる軌道に収束されます。おそらく統合失調症、双極性障害など、疾患ごとに固有のアトラクターがあり、その軌道に陥ったものが病気として現れてくる・・・それをどうやって見抜いていくか・・・こんなことを妄想しながら、日々診療にあたっています。何だか難しい話でごめんなさいね。
震災の話に戻りますが、今回の特徴は本震が2発目に来たこと、そして震度4以上の大きめの余震が長く続いていることです。これまでの大地震は、その後余震が続くことはあっても規模は限られており、かつ早めに終息に向かうのが普通でした。今日も震度4に見舞われていたようですが、震度4といえば横浜では滅多に見られない、おこれば恐怖を伴うレベルのものです。これが長期間続くことで心配されるのは、うつ病の発生だと思っています。
大地震などの災害に見舞われた際、最初に見られる精神科疾患は急性ストレス障害です。この急性ストレス反応が、長く時間がたった後も続いてみられるものが心的外傷後ストレス障害(PTSD)です。これらはあくまでも急性ストレスが原因でおこるものですが、今回のように強い余震が続いていると、慢性ストレスからくる病気、中でもうつ病の発生が心配されます。たしかに、これまでの震災でも、余震自体は落ち着いても避難所生活とか環境の変化とか慢性的なストレスは多くありました。しかし今回のこの状況は、悲劇を生み出した源である地震そのものが繰り返し襲ってくるという状況であり、直接的な恐怖が繰り返されるというところは注意が必要だと思います。とくに、最初の大きな地震で被害を受け、一息ついたところで本震に見舞われたわけで、皆さん「気を抜いてはいけない」という気持ちになっているはずです。No.122No.123でもお話ししましたが、慢性ストレスはエネルギーの節約、すなわちうつ病を呼び起こします。その意味では、このように余震が頻発している間は、可能であれば遠方・・・地震が起きていない地方・・・に一時避難する方がよいのではないでしょうか。もちろん、地元での生活、人間関係、仕事、家の心配などいろいろな事情はあるでしょうし、移動はそう簡単なことではないでしょう。ただ、余震のたびに生きた心地がしないという方々は、そうした方法も考えた方がよいのではないか・・・精神科医としてそう思っています。被災地には、災害派遣精神医療チーム(DPAT)が、わが神奈川県からも派遣されています。チームの皆さんご苦労様です。皆さんのご検討を祈っております。
さて今日の一曲は、貴志康一のヴァイオリン協奏曲です。明治生まれ、弱冠28歳で夭折したわが国の天才作曲家ですね。それにしても、滝廉太郎も23歳で逝去。彼らが長生きしてたら日本の音楽界はどうだったのか・・・いろいろ妄想してしまいます。

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