横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.163 抗うつ薬の役割

hitorigoto-163a.jpgようやく丸善でingressしおりをゲットしました、横浜院長の柏です。うつ病の治療論ですが、おくすりの話に入って参ります。さて、そもそもなぜくすりが必要なのでしょうか。うつ状態(「うつ病」と「うつ状態」は区別しましょう!)は誰でもなるものですが、時間が経てば自然に立ち直りますよね。普通は一晩寝れば気分は元通り。つらい失恋でも、一週間もすればくよくよしつつも何とか立ち直るものです。これが二週間以上、ほとんど毎日、ほとんど一日中続くのがうつ病でして、No.124でお話しした通り、自力で回復できない、というのが病気たる所以なのです。こちらはNo.073でお話ししましたが、ゴルフに例えるとバンカーに落ちた状態です。フェアウェイなら何とか自力で動けても、バンカーに入ってしまうとなかなか自力で出るのは困難で、サンドウェッジのような普段は使わない道具を使うことになります。うつ病の治療では、このサンドウェッジにあたるものが抗うつ薬です。化学反応に例えるなら、健康な状態とうつ病の状態との間の遷移を促す触媒のような働きとも言えます。うつ病の場合、病気になった理由が了解可能な場合も多く、そうなると病気というよりも「気持ちの問題」としてなんとか乗り越えようと頑張ってしまうものですが、そこに落とし穴があります。一度バンカーに落ちてしまったボールをいつも通りにアイアンでいくら叩いても、バンカーから出すのは至難の業です。無理をせず、必要な道具を上手に使っていただくことが大切です。
どんな病気でもそうですが、うつ病の場合にも重症度によって軽症、中等症、重症と分類をします。中等症以上の場合は薬物療法は必須です。軽症の場合には、認知行動療法など薬物療法以外の治療法をまず選択することもありえますが、たとえ軽症であっても薬物療法をためらわないことが治療の基本です。といいますのも、「軽症=治りがよい」とは必ずしもいえないことがうつ病の難しいところです。気分変調症という、うつ病の基準を満たさない程度の軽いうつが2年以上続く病気がありますが、重症度からいえば軽症以下にも関わらず、気分変調症はうつ病以上に治りにくいところがあります。軽症うつ病の場合には、すっきりとよくなる方も多数いらっしゃる一方で、軽症ながらも経過が長引く方も一部いらっしゃいます。我々医師は、その方の認知(ものの見方、考え方)、性格傾向、おかれた環境や対人関係などを総合的に判断し、ご本人とも相談して治療法を選択します。しかし、治る病気である一方でこじらせると長引く恐れがあるといううつ病の特性を考えると、こじらせないための最善の策を取るべきだと私は考えます。そのため、基本的には軽症であってもうつ病である以上は薬物療法を導入するか併用することが望ましいのです。
最後に今日の一曲です。前回バッハのオルガン曲からトッカータとフーガ ニ短調をご紹介しました。クリスマスシーズンですので、同じバッハのオルガン曲から今日はパッサカリアとフーガ ハ短調を、前回と同じカール・リヒターのオルガンでどうぞ。音楽の奥深さではこちらに軍配が上がると思います。

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