横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.128 うつ病の症状論(その1)

横浜院長の柏です。道草が続いてしまいました。本題に戻りましょう。今日は、No.125でご紹介したDSM-5の診断基準に並べられているうつ病の症状について、ひとつひとつもう少し掘り下げて見ていくことにしましょう。今日は1番と2番を扱うことにします。なお、No.105でご紹介した黒い犬の動画も見返していただくと、理解がよりスムーズかと思います。
No.125でもお話ししましたが、今日のテーマである大うつ病エピソードの最初の二つが、うつ病として最も大切な症状です。どちらもない場合はうつ病とは診断しないこととなります。まずは1番、抑うつ気分。ゆううつで落ち込んでいる状態です。気分が水平線のずっと下の方で推移し、悲しく哀しく、とにかくつらい気分です。No.119でご紹介しましたMidoriの表現は、それを大変よく表していると思います。そして、何を考えても悪い方にしか考えられなくなります。いわゆるネガティブ思考ですね。ものごとは、どんなものであれ良い面もあれば悪い面もあります。何か失敗をした時、この世の終わりと思うか成長の糧と捉えるか。考え方一つで、気分も大きく変わることになりますよね。このように、抑うつ気分はネガティブ思考を生み、そのネガティブ思考はまた抑うつ気分を生む(強める)ことになります。この悪循環を、思考・認知のところから切り崩そうというのが認知行動療法です。
うつ状態では、喜怒哀楽の「哀」の部分が強まるように見えますが、本当のところは他の「喜怒楽」が弱まる、という方が実態に近いのかも知れません(「怒」については、怒る元気もない、という方が多いのですが、一部には強まる方もあります)。しかし、うつ病もより重症となってくると、この「哀」すら感じられなくなることもあります。喜怒哀楽の感情全体がが薄まる、平らになる、そして枯渇するような感覚です。何も感じられない、というのは本当につらいことだと思います。
次に2番、興味・喜びの減退についてお話ししましょう。喜怒哀楽の「喜・楽」が薄くなる状態ですね。本来であれば大好きなもの。それらに接してもまるで興味を持てない、楽しめない、喜べない状態です。野球が大好きなお父さんが、ペナントレースが始まってもテレビを見ようともしない。お母さんが、趣味のママさんコーラスにまるで行かなくなった。周囲からは、抑うつ気分がご本人の表情、態度などで気づかれる(ポーカーフェイスの方ではわかりにくいことも)に対して、こちらはこのような行動の変化で気づかれます。うつ病の早期発見には、ご家族が「あれ、何か違うな?」と感じることもとても大切です。
この世には楽しいこと、嬉しいことがいくらでもあるわけでして、この興味・喜びの減退は大変つらい症状と言えます。世の中がモノトーンに見える、白黒に見えるとおっしゃった方もありました。味覚も変化して、味を感じないとか、砂をかむようだと言われた方もあります。
どうでしょうか。1番、2番ともに大変つらい症状ですね。しっかり治療を受けられて、一日でも早く穏やかな気分で、物事を楽しめる日を取り戻されることを願っております。
今日の一曲は、JR東海の奈良のCMでも印象的に使われている、「ダッタン人の踊り」です。ボロディンの歌劇「イーゴリ公」からの一曲となります。ラトル指揮ベルリン・フィルでどうぞ。有名な曲ですが、とくに1分7秒あたりからはじまる主旋律は、ため息の出る美しさですね。

コメント

  1. いちご大福 より:

    先生こんばんわ!
    そういえば…先生に初めてお会いした時の自分は…もう全てお終いだ生きてちゃいけない…消えなきゃ…そういう考えしかなかったです。失敗しても…こうやって生きてるんですね。なんだかんだ言っても…なんかあの頃を思い出すと少し泣けてきますが先生と会えてよかったと思います。
    ネガティブ思考はそれまでもそうだったからあんまり重要視してませんでした。
    度が過ぎてしまってたんですね。
    思い出しただけで切ない気持ちになるのは何故なんでしょう…
    今は好きな事も出来てほんと良くなったんだなぁと思います。
    でもこうやって改めて見てみるとあの時の自分を知る手がかりになりそうです。
    いつもありがとうございます。

  2. 横浜院長 より:

    いちご大福さん
    ちょっと書き方が悪かったかも知れませんね。
    ネガティブ思考は、悪いだけではなくて、慎重さなど良い面もあります。
    でもどうもうつになると、度が過ぎてしまうようです。
    認知行動療法は、ネガティブを消すのではなく、ネガティブ、ポジティブ、いろんな見方が世の中にはあるのだ、と幅広い視点を身につけることがその狙いです。

  3. パパゲーナ より:

    随分長い間、憂鬱と精神的な閉塞感で身動きは取れず、思考は狭窄するわ、不安と緊張で食べ物が喉を通らなくなるわで、沢山持っていた楽しみ等は霧散いたしましたねェ。楽しいことをする気力も潰えておりました。。。
    今回院長先生にご紹介いただいたイーゴリ公、バレエ愛好者として、発病以前に公演を観に行ったことを懐かしく思い出しました(^。^)勇壮なダッタン人の若者の踊りと乙女達とのロマンティックな名シーンですネ(^^)♪
    発病から早五年余り。。コンサートやバレエを楽しむ為に、いつ劇場に行けるか見当がつきません(;^_^A手強い易疲労性の症状で、平日は20時頃、週末は夜昼無く寝続ける今の生活。粘り強いウツとの闘いは、まだしばらく続きそうです(^◇^;)エネルギー低下の精神疾患うつ病。本当に侮れない病気ですネ(−_−#)

  4. まねきねこ より:

    私は「怒」の感情のコントロールがうまくできず、イライラがこもって苦しい感じなので厄介です。どうしてこんなことになったのかと思うと、悲しくなります。自分でできる脳に良いことは、かなりやっているのですが。発芽玄米を食べたり、しょうがをたっぷりとったり。カルシウムもとっているのですが。
     好きなテレビは面白く見られるので、発症した時の典型的なうつより複雑化しています。ネガティブも慎重さと考えられるなんて、さすがは柏先生です。
     先生は白いライダー、マッハがお好きだそうで。確かに笑えます。でも泊君が目立たなくなってしまいそうで困ります。白いバイク野郎なら白バイ隊員だったらよかったのにと思います。快傑ズバットと言い、登場した時の見栄が長いんですよね~。私はドライブの「ひとっ走り付き合えよ」が好きなので、泊君には再び目立ってほしいです。

  5. 隊長 より:

    まだまだ精神の不調が続いております。
    なんとかならないかな?
    ま、気長にいこうと思います。
    『ダッタン人の踊り』。 
    3年次に演奏会で「弾こう!」と言ってたのですが、コンマスの僕の技量があまりになかったため、おなじボロディンの『中央アジアの平原にて』になった、ちょっと苦い思い出のある曲です。
    2年後、史上最強のコンマスが見事なソロで魅せて、聴かせてくれました。
    でも、クラシックの曲の中では5本の指に入る好きな曲です。
    モーツァルトは、小曲が同じような旋律なので『Eine Kleine Naght
    Musik』 が好きですね。
    ネガティブ思考は慎重さ。
    これいいですね。 こう考えます。

  6. 横浜院長 より:

    パパゲーナさん
    コンサートに出向き、楽しめること。治療の目標の一つにしましょう。
    まねきねこさん
    「怒」は、跳ね返って自分に返ってくるのでつらいですね。
    「まあ、いいかぁ」と流せるのが理想ですね。
    隊長さん
    そうですね、メロディーラインということでは私も5本の指に入りそうです。
    中央アジアの平原にて、も素敵な曲ですよね。
    ボロディン、そして次ブログのベルリオーズと、どちらも医学生だった時期があったりします。