横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.098 摂食障害4 過食の成分

hitori98-a.jpg横浜院長の柏です。ご紹介が遅れましたが、15日に発売されたHanakoムック(カラダ徹底メンテBOOK)に当院の記事が再掲されています。待合にすでに配置しましたので、ぜひご覧下さい。前回と同じ内容です。
今日は「過食の成分」のご紹介です。さて、過食はなんのためにするのでしょうか。大きく二つの理由が考えられます。一つは、拒食の反動です。生体はホメオスタシス(平衡状態)を保とうとしますので、飢餓状態になれば当然エネルギーを大量に摂ってそれを満たそうとします。なので、前回お話しした強迫性があまりに強い方(制限型)以外の方は、拒食のあとに過食がやって来ます。摂食障害の方の中には、本当は食べることが大好き、という方も少なくなりません。我慢はいつまでも続くものではなく、反動としてたくさん食べてしまうことになります。
そして過食のもう一つの理由。それは、「もやもやした気持ちをおさめるため」です。うつとも不安とも違う、もやもやした気持ち。何かイライラして、衝動的で、身の置き所がないような、そんな気持ちになった時、人はたくさん食べてしまうようです。やけ食いとかストレス食いといえば、皆さんも経験あるでしょう。ただ、過食の方はそのもやもや度合いが普通ではなく、何らかの代償行動がないと落ち着かないのです。過食、買い物、アルコール、ギャンブル、性的逸脱行為・・・依存という切り口からとらえられることも多いこうした行動の背後に、このもやもやした気持ちがあるようです。
境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder; BPD)、いわゆるボーダーラインと呼ばれる病気があります。不安定な自己像、対人関係様式を中心とするパーソナリティの病です。最近、私の外来では典型的なBPDの方の診察にあたることは稀ですが、こうしたBPD心性(これを境界性パーソナリティ構造 borderline personality organization; BPOと呼びます)を持った方の割合はそこそこ多いです。自己像がはっきりせず、対人関係に敏感な方々です。これは、今の時代の空気を反映しているのかも知れませんね。過食も、こうしたBPOの一つの現れとも言えます。
過食の成分とは、このように自信を持てず、人に言いたいことを言えず、もやもやがたまっているような状態で見られる、何か不安定で危うい気持ちのことです。「対人関係の問題」をはずしては治療が成り立たない所以ですね。
さて、今日の一曲はバッハにしましょうか。バッハといえば名曲揃い、どれか一曲というのは至難の業ですね。今日の気分で・・・ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲BWV1060にしましょう。あまり有名ではないですが、名曲中の名曲です。原曲は2台のチェンバロのための協奏曲ですが、私はオーボエ版が好きですね。哀愁に満ちた旋律にはオーボエが似合います。正統派ではないですが、才気溢れるN.KennedyとA.Caseyの演奏でどうぞ。3楽章別々の動画となっています。



コメント

  1. ババゲーナ より:

    過食症ではありませんが、メンタルのお薬を飲み始めてから、真夜中の甘いもの祭り、“華燭の宴”ならぬ、“過食の宴“、を繰り返しております、ワタクシです。この“真夜中の甘いもの祭り”と“過食の宴”、どうにかならないかとずっと悩んでいます。
    うつ病なもので、運動も余りできません。見事高脂血症になり、残すは糖尿病(。-_-。)
    糖尿病というネーミングは優しすぎますよね。”全身血管ボロボロ病”のような病名に改名すべきだと思います(~_~;)
    ウツのなり始め、バッハを聴けば治るような錯覚を起こして、バッハCD20枚入りパックを、フラフラしながらHMVに買いにいったものでした。
    ウツの疲れやすさが緩和され、また旅に出ることが出来るようになった日には、”ドレスデン、バッハの旅“に出たいです。バッハ、愛してます♥

  2. ババゲーナ より:

    神様バッハに比して、大分軟派な歌劇の間奏曲ですが、音楽を楽しめる皆さんには潤いを、楽の音が楽しめない苦しい病状の方には、ミューズからの慰めとしてお送りできたら、大変に嬉しいのですが。老名指揮者の素晴らしい指揮に、団員も愛に包まれているのが分かるような演奏です。
    カヴァレリア ルスティカーナ 間奏曲
    指揮 ジョルジュ•プレートル
    http://www.youtube.com/watch?v=ykUCfqvnI9I&feature=youtube_gdata_player

  3. 母さん より:

    ありがとうございました。
    先日伺ったように、過食の成分と過食嘔吐の成分は同じと考えればいいわけですね?
    拒食の成分を教えて頂いたとき まさに娘。と思いましたが 過食の成分を拝見し、やはりネックはこの部分だったな。と納得いたしました。
    対人恐怖を併発するというのもわかりますね。
    対人関係を含めた社会性というのは 素人のわたしは娘を見ていて失敗を繰り返しながらも経験という訓練で身につけていくというのが感想です。
    拙い経験だとしても、本人にとっては計り知れないくらいの努力というものが必要になってきますよね。
    それを積み重ねるとなると 本人には非常な負荷がかかり 医療者の力 家族のサポートは大切ですよね。
    過去に柏先生がおっしゃったことで「症状だけを見てはいけません。症状を止めてはいけません。症状は氷山の一角です。」というものがあり、症状だけでも四苦八苦していたわたしはけっこうショックでした。
    どんなにでかい氷山なのだろう?(>_<) と。
    長いことかかりましたが お陰様で娘の抱えた心の氷山は溶けたのではないかと思います。
    昨日娘に 「幼い頃から抱えていた 生きずらさ はまだあるの?」と聴いてみましたら
    無くなったそうです。
    あとは残ったプライドの高さをなんとかしたいけど。と言っておりました。(^-^)
    先生の長きに渡る娘の膨大なカルテ(決して拝見できるものではないでしょうが)が むすめの成長記録 そして それこそ直木賞物の回復へのストーリーだと思っています。(^_^;)
    そして これからもまだまだ続編が続いていくと思うので よろしくお願いいたします。

  4. 横浜院長 より:

    パパゲーナさん
    おっ、マスカーニですね。ありがとうございます。
    ぜひまた、お薦め教えて下さいね。
    >>うつ病なもので、運動もあまりできません。
    決めつけないで!その人にあった、その時にあった運動の仕方を考えていきましょう。
    お母さんへ
    おっしゃる通りです。「対人関係の問題」は、最後はご本人が試行錯誤して乗り越えていくしかありません。治療者は、傍にいて、転ばないように声をかけ、転んだら手当をすることしかできません。本当にここまでよくきました。カルテは私の宝でもあります。続編とおっしゃいますが、もう卒業は近いと思いますよ。
    プライドが高いのは・・・いいじゃないですか。それがあるからしんどくなったけど、それがあるからここまで回復したのも事実です。だいぶ譲れるようにもなってきていますしね☆
    そして・・・何よりも、今の彼女の姿はお母様お父様のご尽力あってのことです。ご自分をほめる時間もきちんと作って下さいね。

  5. 母さん より:

    カルテは宝物 と言って下さり とても嬉しく思います。
    プライド、、そうでしょうか。(^-^) ありがとうございます。
    本人は今 並外れた(-_-;)プライドも 生きずらさ ととるか 個性とするか って言ってました。
    先生は摂食障害はコミュニケーションの病と教えて下さいましたが 人を受け入れることができなかった娘にとっては先生と話すこと事態が楽しかったと思うし、気付きの場でもあったと思うし、訓練の場にもなったと思っています。
    今は本当にスキルが上がったと思います。
    そうですね。。
    なんだか わたしたち夫婦もいつの間にか歳を取ってしまいました。(-_-;)
     
    でも、わたしもやっと今頃になって親になれたような気持ちになれましたし、自信みたいなものが出てきました。
    今のところ それがご褒美でしょうか?(^_^)

  6. まねきねこ より:

    マジンドール、と聞いて、水木一郎さんの歌声が思い浮かぶのは私だけではないはず(^^;)。今回の過食の理由についてのご説明、思い当たることばかりです。でも、私は決して几帳面で真面目な努力家と言った、摂食障害になりがちな性格とは正反対なのです。なぜ、55㌔台になるとパニくるのかと言うと、ここを守らないと、一気に体重が増えてしまうからです。最後の防衛ライン、S閣諸島みたいなものです(TT)。そういう心理状態が、つまり自分を追いつめているのでしょうか?そう言えば、精神が安定しているときは、ムダ食べしたくないです。で、お腹が空いてしまったとき、ちょっと食べられるように、こんにゃくの煮物を用意しておいたところ、いざ、構えてみれば異常な腹減りが来なくなり…へそ曲がりだwと思いました。
     お!今日の「世界ふしぎ発見」は肥満の特集ですね。でも、こちらは録画を予約、観ているのはアド街です。八景島のあなご天丼はおいしかったなあ~と、懐かしく思い出しています。島寿司も20年近く前、行ったことがあります。まだあってよかった(^^)です。病気になる前のことは、すべてが懐かしいのですが、よく思い出してみれば、いつでもどこか具合が悪かったような気がします。現実は、そんなものですよね。
     ハバケーナさんが、うつ病だから運動は余りできないと書いてらっしゃいますが、まずはストレッチから始めたらよいのではと思いました。運動と言うと、ガンガンやらなきゃいけないイメージがありますが、体をほぐす程度のヨガ・ストレッチから慣らしていくことをお勧めします。
     Anonymousさん、私は鎌倉市に近い横浜市に住んでいます。神奈川は関東のユーゴスラビアですか。いや~タイムリーなだけに、思わずうまいっ!と唸ってしまいました。

  7. 匿名 より:

    先生、家族の病気に対して、先が見えない不安、自分ではどうにもならないもどかしさに苦しむ時、少しでも前向きに考えるには先生ならどうされますか?自分も心から笑うことが出来ず、先生が紹介してくださる音楽も音楽として聴けず、ただの音にしか聞こえなくなってきました。ごめんなさい。辛い毎日です。

  8. 匿名 より:

    まねきねこさん、お返事ありがとうございます。私は横浜市に近い鎌倉市に住んでいます。どこかですれ違っているかもしれませんね。

  9. 横浜院長 より:

    まねきねこさん
    過食は、摂食障害でなくてもよく見られますよ。私も時々やらかします(お菓子バカ食い)。
    アド街、八景島だったんですね!ガーン見逃しました。
    Anonymousさん
    ご家族の病気とのこと。ご自分の病気以上に難しいことですよね。それでもご家族ご本人としたら、そばにあなたがいるというだけで、病気に向かう気持ちも全然違うのじゃないかしら。
    健やかなるときも、病めるときも、そばにいること・・・それが一番ですよね。
    ところで、音楽がただの音としか聞こえないというのは気になります。うつがしっかりあるようでしたら、お薬について考える必要があります。主治医とよくご相談いただければと思います。
    ☆ちょっと忙しくて更新が遅れております。皆様しばしお待ち下さいませ・・・。