横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.082 可逆と不可逆

hitori82-a.pngソチってロシア語でzoiyって書くんだ、と思っていたお間抜けな横浜院長の柏です。アバドが鬼籍に入り、カラヤンの時ほどではありませんが一つの時代の終わりを感じています。
さて、そんな感傷に浸っていた折、STAP細胞発見のニュースが飛び込んできました。これは衝撃的でした。ES細胞、iPS細胞に続く幹細胞技術として注目されていますが、報道はこの発見の本当の重要性を正しく伝えていないと思います。STAP細胞発見の真の重要性は、「新たな万能細胞開発」ではなく、「哺乳類細胞の可逆性の証明」ではないでしょうか。私には、iPS細胞よりもはるかに意義深い発見に思えます。
多分化能を有する幹細胞は、神経細胞や筋肉細胞などに分化できるが、分化後の細胞は幹細胞に戻ることはできない、この不可逆性が生物学の常識でした。ところが、STAP細胞はその常識を覆したのです。Nature誌が初回投稿で「何百年の細胞生物学の歴史を愚弄している」と却下したのはそういうことでしょう。ES細胞は胎児胚から細胞を取ったものであり、体細胞を逆転したものではありません。iPS細胞では遺伝子導入という人工操作が加わっており、可逆的とは言えません。その点STAP細胞は、細胞そのものには手を加えず、外からの刺激だけで幹細胞へ逆転させたわけで、細胞の可逆性をはじめて証明したことになります。
今私たちの身体を作っている細胞の一つ一つが、隠された力を持っている。ワクワクする話だと思いませんか?願わくば私のテロメアが短くなりすぎる前に、再生医療が発展しますように(^_^;
時間は不可逆です。元に戻ることは出来ません。病気はどうでしょうか。病気の定義はいろいろ可能だと思いますが、ここでは「自力では容易に元に戻れない状態」と定義したいと思います。一日寝ていれば治る風邪や下痢は、病気には含めないということです。心療内科、精神科の病気はどうでしょうか。私は、うつ病、統合失調症、不安障害などの精神障害は元来可逆的なはずだと考えています。ただ、可逆的とは言ってもその間の推移、遷移に困難があるわけで、治療とはいかにその推移、遷移をスムーズに行わせるかという営みだと考えています(ブログNo.073もご参照下さい)。難治の方がいらっしゃるのは事実ですが、治療法のさらなる進歩により、いずれ人類はこれらを克服する時が来ると信じています。
アルツハイマー病などの変性疾患、脳器質疾患の場合は失われた部分の問題が生じますが、再生医療はこれらにも光を与えてくれるでしょう。発達障害、知的障害の場合は、生来の特性であり「可逆性」で解決できる問題ではありませんが、ADHDの薬物療法、自閉症スペクトラム障害のオキシトシン投与の研究などの成果も上がりつつあります。今後の研究に期待しましょう。

コメント

  1. 隊長 より:

    よくある(というか日本で一番多い)苗字なので、博士の苗字が欲しい! と最初にこう思ったアホな男ですが、可逆的というところに「自分の病気、治るかも!」と思った次第です。
    いろいろな意味で希望を与えてくれた成果、どんどん発展していってほしいですね。
    昨日の大船で、ノーベル賞も間違いない、との声もありました。

  2. 925 より:

    「私たちの身体を作っている細胞の一つ一つが、隠された力を持っている」というのは本当にすごいことだと私も思います。私達の身体の成分は宇宙の成分と同じ、というのを聞いたことがありますが、宇宙と同様まだまだ未知の世界ですね。

  3. まねきねこ より:

    自分の旧姓は珍しい苗字だったので、むしろ平凡な苗字に憧れていた「ねこ」です。悩みはそれぞれですねえ~。さて今週の話題はソチそっちのけでSTAP細胞でいっぱいでした。実はよくわからなかったのですが・・・うん、なんとなく可逆性ということで、多くの難病とされている病気に希望が見えてきたということですね。アルツハイマー病については、忍び寄る影に日々怯えています(^^;)。
     私は先生に、もし俳優だったら正義のヒーローを支える科学者の役か、悪の司令官、総裁-Xの役か、どちらをやりたいか聞きたいと思ったことがありましたが、聞くまでもなかったですね(爆笑)。確かに、悪役が魅力なければ、ヒーローも作品全体も面白くないですから。そのうち、ヒーロー物の心に残る名悪役のお話なども、聞かせてください。

  4. 横浜院長 より:

    みなさんこんにちは。925さんはじめまして。
    人体、精神は小宇宙、まだまだ未知の力が秘められていると思います。
    苗字ですが、私はシンプルかつそんなにない苗字なので気に入っております。試験の時もすぐ書けるし。
    名悪役、というか悪の科学者がアコガレの私。とりあえず現在進行形は鎧武の戦極凌馬博士。オーズのドクター・マーキーを越えられるか?注目です。

  5. パパゲーナ より:

    院長先生、こ無沙汰しております。
    いつも先生の余談にばかり喰いついてしまう
    パパゲーナでございます。
    ワタクシのクラウディオが亡くなり意気消沈。。
    最愛のジュリーニを亡くして依頼のショックです。
    STAP細胞発見、ザックリと新聞で読みました。
    IPS細胞を超える偉大な発見とか、女性研究者が
    論文を発表されたとか、書かれてあったように
    記憶しております。
    職業に貴賎なしといわれますが、
    人類の健康に寄与する職業は本当に
    尊いものでありますね。。。

  6. 横浜院長 より:

    パパゲーナさんお久しぶり。
    ジュリーニ、もう亡くなられて9年も経つんですね。カラヤンは私が研修医2年目の時でした。
    昨年、日本ではおなじみのサヴァリッシュも亡くなりましたね。いろいろ思うところがあります。