横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.072 非定型抗精神病薬 その1

横浜院長の柏です。今日は、月に一度の東京でお仕事の日です。水曜の昼下がり、東京ドームシティのベンチでMacBook Airに向かっています。こないだの日曜日は、長男と映画Steve Jobsを見て参りました。マカー親子としてははずせませんね。
さて、リチウム、抗てんかん薬ときた気分調整薬シリーズのオオトリは非定型抗精神病薬です。長い名前ですね。このグループはもともと統合失調症のお薬ですから、本来は統合失調症の巻でご紹介すべきですが、発売後に双極性障害、うつ病などにも適応が拡大され、今や幅広い精神疾患に応用可能なマルチプレーヤーとして地位を固めつつあります。二刀流の大谷選手みたいなものでしょうか。で、たまたま双極性障害を最初にお話ししていたことから、気分調整薬の一つとしてのご紹介となったわけです。
非定型、というからには定型というのがあるわけでして、定型抗精神病薬というのがそのプロトタイプです。抗精神病薬とは、読んで字のごとく精神病症状を鎮めるお薬です。定型抗精神病薬とは、50年以上の歴史を有するクロルプロマジン(コントミン、ウインタミン)、ハロペリドール(セレネース)に代表される薬物で、基本的には神経伝達物質のドーパミンを抑制するはたらきを有します。このあたりの詳細は、いずれ統合失調症の巻で書きましょう。
さて、非定型抗精神病薬は、こうしたドーパミンの抑制を柱としつつも、セロトニン、ノルアドレナリン、ヒスタミンなどの様々神経伝達物質にも作用を持つ特性があります。こうしたマルチな特性が、マルチな精神疾患に効果を発揮する秘訣のようです。
この項を書いていて、Wikipediaの非定型抗精神病薬の記載がきわめて批判的な文体になっていることに気づきました。この薬物は、代謝系の副作用などもあり注意して使う必要があるのは事実ですが、これまで十分な改善を見なかった統合失調症の方の陰性症状、認知症状が明らかに改善する様子をこの薬物の黎明期に目の当たりにしてきた者としては、一方的な批判には反対の立場です。また逆に、有名な先生でもこの薬物の登場後、定型抗精神病薬の使用に強く批判的な方もいらっしゃいますが、それも極端だと思います。うつ病治療で古典的な三環系抗うつ薬が切り札となるのと同じく、統合失調症治療では定型抗精神病薬は切り札となりえます。最近の若い精神科医でクロルプロマジン、ハロペリドールを使わない(使えない)先生がいると聞くと、愕然といたします。要はバランス感覚、古典的な定型薬も新しい非定型薬も、患者さんの病気、状態に応じて適切に使っていくことがご当人の利益につながると考えます。
双極性障害の治療でも同じ事が言えます。非定型抗精神病薬の登場、双極性障害治療への導入は画期的なことではありますが、それは決してリチウムや抗てんかん薬の必要性を失わせるものではありません。流行に流されることなく、持てる武器をもって最善を尽くす。医師として、肝に銘じていきたいと思います。
hitori72-a.jpgところで、東映特撮YouTube Officialで私の一押し、怪傑ズバットの第1話、最終話を今なら期間限定でやってますよー。ぜひお見逃しなく。

コメント

  1. 横浜院長 より:

    ズバットのURL抜けてました。すみません。
    https://www.youtube.com/playlist?list=PLPtUVm4GBlyInabuSSEKCnvu3W0n0qwEt

  2. まねきねこ より:

    バルプロ酸は下痢の副作用があるのですか?パキシルを飲んでいたころは便秘気味で、出したいときに下剤を使っていたので便利だったのですが、なんか、出なくてもいい時に出たくなって、電車を途中下車した時がありました。絵画教室の帰りで、35分電車に乗っていなければならないじょうたいでした。一週間後、今日は大丈夫と思っていたら、やっぱり前の週に途中下車した駅に近づいてきたらおなかが何やら不審な感じに。これは不安障害にはまってしまったのでしょうか?自己暗示に無意識にかかっているような。うつ病の人も、統合失調症の人も、不安神経症を切り離せることではないような、むしろ、症状の一つなのではないかと今更ながらに思いつつ、あ~困ってしまいました。季節の変わり目で、寒さに体が慣れていないということもあると思うのですが。

  3. GRACE より:

    お忙しい中、定期的更新、お疲れ様&ありがとうございます。
    先日ブログの存在をお伺いし、本日一通り目を通させていただきました。
    貴重なお薬のお話や先生のお好きな音楽のお話など、とても有意義なブログですね。
    私の師事するK先生のPCがまさしく最新型のマックブックエアーです。
    ウィンドウズユーザーの私は四苦八苦しながら使っています。
    これからも素敵なブログを作っていってくださいね(^^)

  4. 隊長 より:

    薬の使い方っていろいろあるのだなあと。
    3つの医療機関に通って、理事長がもう10年になるところです。
    治りにくいのか、治らないのか?
    仕事を始めても2週間でイヤになって、休んでしまう。
    こんな生活から抜け出たい。

  5. 横浜院長 より:

    まねきねこさん
    バルプロ酸、下痢はあり得ますね。おっしゃる通り、不安神経症(不安障害)は誰でもどんな病気の方でも(健常者でも)なりうるもので、危険を避けるための本能が暴走してしまうんですね。
    電車ですが、寝てしまう、音楽やほかのことに集中する、など工夫して一度乗り越えられるとだいぶ楽になるかと思いますよ。
    GRACEさん
    こちらでははじめまして。K先生もMBAでしたか。さすが一流の方はお目が高い(笑)。
    ブログは、自分のペースで書いていくことです。私も、週一を目指していますがご覧の通りなかなかそうは参りません。読者のペースでなく、自分のペースが大切ですよ(って読者のみなさんすみません(^_^;)。
    隊長さん
    10年だと大船開院の頃からでしょうかね。私のブログが少しでもお役に立てると良いですね。