横浜院長の柏です。日曜日、久しぶりに対人関係療法の勉強会に参加し、よい刺激を受けてきました。対人コミュニケーションの問題に根を下ろした病気の多い近年の心療内科・精神科医療においては、認知行動療法以上に効果が期待できる精神療法と言えるでしょう。いずれここでも紹介しますね。
今日はくすりについて書きます。まず、当院のホームページには
ハートクリニックは、患者様に安心して治療を受けて いただくために、お薬を必要最小限度に抑える治療プログラムをご用意しています。
という記載がありますね。この「必要最小限度」というところがとても大切なことであり、また誤解を招きやすいところかと思っています。
みなさんが内科や小児科などを受診され、おくすりが出る場合、普通は最初から決まった量の薬が出てきますね。心療内科はそうではありません。同じ薬であっても、人によって使う量には大きな違いがあります。また、同じ人であっても、その時の状態によって必要な量は変わってきます。例えばレボメプロマジン(ヒルナミン®)という薬の場合、2.5mgから200mgまで、100倍近い幅があります。内科医は基本的には体重だけを気にして処方量を決めればいいのですが、心療内科医にはそれぞれの方の状態、経過から最適の処方量を決めるという、さらに高度な技術が要求されます。
通常、くすりは少なめの量から開始します。これは、副作用は量が多い方が出やすいものが多いこと、少量でも効果が上がる方がいることを考えてのことです。緊急度、年齢、健康状態などを鑑み、どの量から開始するかを決定します。その後は、副作用が出ない、あるいは耐えうることを確認しつつ、症状の改善具合を時間軸に沿って評価し、徐々に増量していきます。
診察にあたっていると、「できればくすりはのみたくない」「できればくすりは増やしたくない」と言われることがままあります。
ブログNo.011などでお話ししたとおり、心療内科の病気は脳、性格、環境の3点セットから成り立ちます。肝臓の病気には肝臓の薬を使うように、脳の病気には脳の薬を使うことが必要な場合が多いですし、薬の効果は医学的にも証明されています。副作用や妊娠中などどうしても薬を使えない場合以外では、最も有効な方法である薬物療法を避けることはわざわざ遠回りの治療を選ぶことになったり、慢性化の危険を犯すことにもなると思います。
薬の量に関しても、少ない=良いこと、多い=悪いこと、という思い込みから脱却することが必要です。たしかに、一部の医師による多剤併用大量投与から「薬漬け」という言葉が生まれたことからもわかるように、必要以上の大量療法は行うべきではありません。しかし、向精神薬の主な効果が脳内神経伝達物質の流れの正常化である以上、そのために十分な量を投与しないと治療効果としては不十分となります。治療の目標は症状を十分にコントロールし、本来の社会生活に近いレベルを目指すことであるべきです。症状が十分にコントロールされている状態(寛解状態)とそうでない状態では、社会生活において格段の差がみられます。また、寛解状態を1年以上維持できれば、病気の性質や病歴にもよりますが、その時点から薬を減らしていき、中止することも視野に入ってきます。必要量に足りない量で中途半端な改善となっている場合、薬を中止することもできず、トータルではより薬をたくさんのむことにもなりかねません。多い少ない、ではなく、必要十分か否か、が大切なのです。
みなさんにはぜひ、「必要」にして「十分」な薬物を十分期間使用することにより、十分な回復を遂げていただきたいと切に思っております。くすりを使っていく上でご心配な点があれば、診察の際にご遠慮なく主治医にお伝え下さいね。
コメント
まさに、良い加減という言葉は、お薬の良いさじ加減からきているという通りですね。
私の今の主治医は、私の様子をよく聞いてくださり、不安なことや質問に丁寧に答えてくださいます。主治医と患者の信頼関係は、とても重要だと思います。副作用の苦しさを訴えても、「この量で副作用は出るはずない」とつっぱねた医師もいましたから。
さて、今や各科で使用されている漢方薬は、心療内科、精神科の世界では、どうなのでしょうか?西太后は「政務繁多にして、うつ病」との記述があり、当帰や芍薬などおなじみの漢方の材料をはじめ、数種類の薬剤が処方されていたそうです。暇を見つけては庭園を散歩したり、案外、今の療法に通じることもしているようでした。さすが中国4000年の歴史は侮れません。
まねきねこさん
漢方薬は、当科でも間違いなく有効です。私もかなりの方に処方しておりますし、当院にはほかに漢方に精通した医師もおります。西太后と漢方については石川町・桂元堂の宮原桂先生がお詳しく、著作もありますよ。