福祉用語の基礎知識

自己実現

哲学、思想領域を含め、多様な意味において用いられる概念であるのが、現代の社会福祉において正当とされる価値の一つで自己のもつ能力や機能を用いて自らの生き方や生活課題に対する価値を追求し、または実現しようとする事であります。 自己実現の概念を端的の打ち出したその中心人物であるマズローおよびロジャーズは、それぞれ独自の観点から自己実現の概念を確立しています。
マズローによれば、自己実現の欲求はかくありたいという可能性の実現による自己充足の欲望であり、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛情の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求にいたる5段階の欲求階段の内、下位の欲求が満たされると順次に高い欲求満足に向かうとしまいした。そして最高位の欲求を満たしている人を「自己実現した人」と呼び、人間の精神的健康の重要な指標としました。
ロジャーズの立場は現象論的自己論ともいわれ、その人が自己ならびに外界をどのようにみているかが、その人の行動を決定すると考えています。ロジャーズによれば、現在のありのままの自分の姿と、かくありたいと望んでいる理想像が区別され、一般には、現実自己と理想自己は一致する方向に向かいます。
ソーシャルワーク実践においては、クライエントのありのままの姿を尊重し、また、変化し発達する存在として自己実現を追求する活動を尊重すると同時に、そのために各種の援助方法が用いられます。自己実現があまりにも抑圧されている場合には、環境の改革、変化が要求される場合があり、一方、あまりにも自己実現志向が極端で、環境から遊離したものである場合には、その主体の環境との適合性や順応性について助言しなければなりません。自己実現のプロセスは、個々人の年齢や生活スタイル、信条、価値観等によって異なるが、その個人が十分な自己充足感をもち、長い経過のなかで、その環境への順応や適応が同時に自己実現の歩みになっていることが重要であります。